2025年11月19日、Porscheはフル電動SUV「Cayenne Electric」を世界初公開した。

ラインアップは「Cayenne Electric」と「Cayenne Turbo Electric」の2モデルで構成され、最大850kW(1156PS)を誇るパワートレイン、800Vアーキテクチャによる最大400kW級の超急速充電、そして最新のデジタルインターフェースを導入するなど、電動化時代のCayenneにふさわしい先進性を備える。SUVでありながら史上最強の市販Porscheとなった点は象徴的であり、スポーツカーブランドが本格的にEV領域へと舵を切ったことを明確に示す発表である。

Cayenneの歴史的転換点〜PorscheのEV化の象徴に

Cayenneは2002年に登場し、当時PorscheがSUVを発売することは大きな話題となった。しかし、その高い走行性能と実用性は世界中で支持され、今やブランドの中心的モデルとして確固たる地位を築いている。近年ではPHEVモデルの販売も増え、Porscheの電動化戦略の中でも非常に重要な役割を担ってきた。

このCayenneがついにフルEVへと移行したことは、Porscheの電動化戦略がブランドの核となるモデルにまで広がったことを意味する。Porscheのオリバー・ブルーメCEOは「Cayenne ElectricはSUVセグメントに新しい基準をもたらす」と語り、走行性能、充電能力、日常使いの快適性すべてを高い次元で実現した点を強調する。2025年においてPorscheの販売台数の約36%が電動化モデルである現状を踏まえれば、Cayenne Electricは電動ラインアップの拡大において中心的存在となることは間違いない。

最高出力1156PS〜Porsche史上最強の量産EV

Cayenne Electricの技術面における最大の特徴は、最高850kW(1156PS)という驚異的なピーク出力である。これは911 Turbo SやTaycan Turbo GTをも超える数字であり、Porsche史上最強の量産車となる。

Cayenne Turbo Electricは、ローンチコントロール使用時に最大850kW(1156PS)と最大トルク1500Nmを発揮し、0-100km/h加速2.5秒、0-200km/h加速7.4秒、最高速度260km/hという圧倒的なパフォーマンスを見せる。リヤモーターにはモータースポーツに由来する直冷式オイル冷却技術が採用され、高負荷時でも安定した出力維持に貢献する。さらに日常走行では最大630kW(857PS)を発生し、「Push-to-Pass」機能を使用すれば10秒間だけ130kW(176PS)が追加される。

標準モデルのCayenne Electricも高い性能を備えており、最大300kW(408PS)を発揮し、ローンチ時には最大325kW(442PS)とトルク835Nmに達する。0-100km/h加速は4.8秒、最高速度は230km/hであり、日常使用には十分すぎる動力性能を確保した。

また回生ブレーキは最大600kWとフォーミュラE並みの能力を備え、日常のブレーキ操作の約97%を回生のみで処理できるとされる。結果として高効率なエネルギー回収と安定した制動フィールを両立している。

シャシー技術の進化〜より快適に、よりスポーティに

Cayenne ElectricはEVとして増加した車重を感じさせない走りを実現するため、先進的なシャシー技術を数多く採用している。標準でアダプティブエアサスペンションにPASMが組み合わされ、さらに車両の後輪を最大5度まで操舵するリヤアクスルステアリングが選択可能だ。加えてフラッグシップとなるCayenne Turbo Electricには「Porsche Active Ride」が初めて組み合わされ、車体のピッチングやロールをほぼ完全に抑制することで、快適性とダイナミクスの両面で大きな効果をもたらす。

このほか電子制御式のPorsche Torque Vectoring Plusが採用され、後輪のトルク配分を最適化してコーナリング性能を高めている。EV化によって重心が下がったCayenneにとって、これらのシャシー技術はその性能を最大限に引き出す重要な役割を果たす。

新開発の113kWhバッテリーと400kW級充電の実力

Cayenne Electricには新開発の113kWhバッテリーが搭載され、冷却効率に優れる両面冷却の構造を採用することで、高出力走行と急速充電の両立を可能としている。航続距離はCayenne Electricが最大642km、Cayenne Turbo Electricが最大623km(いずれもWLTP暫定値)で、SUVとしては高い長距離走行能力を備える。

充電性能も大きな魅力だ。800Vアーキテクチャの採用により、直流急速充電では最大390kW、条件次第では400kWの充電を受け入れることができる。これにより10〜80%までの充電が16分以内で完了し、わずか10分の充電でCayenneは約325km、Turboは約315kmに相当する走行可能距離が回復する。さらにPorscheとして初めて11kWのワイヤレス充電に対応し、専用の床プレートに駐車するだけで自動的に充電が開始されるため、自宅での利便性が高まる。

デザインはCayenneの伝統を継承しつつ新時代の表現へ

エクステリアはこれまでのCayenneが持つアイデンティティを保持しながら、EVとしての先進性を表現する造形が与えられている。低く構えたノーズとスリムなマトリクスLEDヘッドライト、サッシュレスドア、そして大型のリアライトストリップが特徴で、視覚的にもモダンな印象を強調する。Turboモデルには専用色の「ターボナイト」が各部に配され、よりスポーティな雰囲気を演出する。

空力性能も大幅に進化し、Cd値は0.25というSUVとしてきわめて優れた値を達成した。可動式エアロブレードやアダプティブルーフスポイラーなど、数多くのアクティブエアロパーツが採用されている。

ボディサイズは全長4985mm、全幅1980mm、全高1674mmとなり、ホイールベースは3023mmへと大幅に延長された。この拡大は後席スペースの改善につながり、快適性が大きく向上している。

室内は“Flow Display”が象徴する新時代のPorsche空間へ

新しい「Porsche Driver Experience」では、ダッシュボードからセンターへと大きく湾曲した「Flow Display」が採用され、車内全体のデジタル体験を刷新している。14.25インチのメーターパネルを中心に、大型のOLEDディスプレイ、さらに助手席側に14.9インチのディスプレイ(オプション)が配置され、現行Porscheで最大の表示領域が実現された。これに加えて87インチ相当の映像を投影するARヘッドアップディスプレイもCayenneとして初めて採用されている。

操作系はデジタル化が進む一方、空調や音量調整など頻繁に使用する操作はアナログスイッチを残すなど、Porscheらしい人間工学に基づいた設計が保たれている。また、自然言語での対話が可能となった新世代の「Voice Pilot」や、スマートフォンやスマートウォッチを車両キーとして使用できる「Porsche Digital Key」などデジタル機能も強化されている。

快適装備も進化し、可変透過式のパノラマルーフや、座席だけでなくアームレストやドアパネルまで暖めるパネルヒーター、さらに車内の照明・空調・音響などを統合的に設定する「ムードモード」が導入されている。荷室容量は781〜1588Lで、フロントにも90Lのトランクが追加され、実用性も高い。

マルチパワートレイン戦略──EVとICE、PHEVを共存させるPorscheの方針

PorscheはCayenneシリーズにおいて、フルEVを投入した後もガソリン車やハイブリッド車を2030年代以降も併売すると発表している。これは電動化の流れを主軸としながらも、地域ごとの電力事情やユーザーの使い方に合わせて多様な選択肢を提供するというPorscheらしい方針だ。

Cayenne Electricのドイツ市場での価格は、標準モデルが10万5200ユーロ(約1890万円)、Turboが16万5500ユーロ(約2980万円)に設定されている。PHEVモデルを含めた従来ラインアップとどのように共存していくのかも、今後の市場展開において重要なポイントになるだろう。

(Text by 8speed.net Editorial Team / Photos by Porsche AG)
※本記事はプレスリリースをもとに、一部AIツールを活用して作成。編集部が専門知識をもとに加筆・修正を行い、最終的に内容を確認したうえで掲載しています。