993から992まで5世代の911モデルを中古車チェック。中古Porsche 911を選ぶ際のポイントを解説する。
※この記事は「Auto Bild JAPAN Web」より転載したものです。
人生最初の「911」は文字どおりマイルストーンだ。数十年にわたる夢、子供時代の思い出、そしてデザイン、技術、ボクサーエンジンの音に対する変わらぬ魅力が、やがて911を所有したいという願望に凝縮される。
しかし、この感情的な高揚は、破滅的な決断につながる可能性がある。その最たる例が「Porsche 996」だ。最初の水冷式911として、911の世界への最も手頃なチケットだった。しかし、20,000ユーロ(約350万円)からの価格は、魅力というよりも、メンテナンス費用の高さを示す警告サインと捉えるべきだろう。
誤った購入を避けるために、ここでは大まかな知識を紹介する。ただし、購入前には専門家にアドバイスを求めることをお勧めする。われわれも、専門家の協力とアドバイスに基づき、ここ最近の5世代の911の弱点を含む主要情報をまとめた。
Type 993
・製造期間:1993年から1998年
・出力:272〜450PS
・中古価格:70,000ユーロ(約1225万円)から
最後の空冷エンジンを搭載する911は、リヤ部のファンが回転し始めるやいなや、特別な機械的な魔法を放つ。全長わずか4.25mのこのモデルは、3.6Lと3.8Lの6気筒ボクサーエンジンを搭載しながら、本当にコンパクトな設計となっている。これもまた、このモデルが現在非常に人気が高い理由の一つだ。
同時に、993は「Porsche 964(1989〜1993年)」よりもはるかに現代的だ。例えば、走行安定性を向上させるマルチリンク式リヤサスペンション、バルブクリアランス調整が不要なハイドロリフター、標準装備の6速マニュアル、オプションのキセノンライト、ツインターボ技術、軽量ホールドプレス鋳造ホイールなどが採用されている。現在では、かつては不評だった「Targa」モデルも、大型ガラスルーフを備えて人気が高い。
弱点: 完全亜鉛メッキ処理が施されているにもかかわらず、シャシーには錆が発生する。主に前部だがリヤにも見られる。リヤのロングメンバーはヒートシールド下で錆が進行し、確認が難しい。スプリング、ダンパー、クロスメンバーのブッシュは老朽化していることが多い。エンジンやステアリングギアが未対策の場合は自分で対応する必要がある。エアコンも故障しがちだ。
Type 996
・製造期間:1997年から2006年
・出力:300〜483PS
・中古価格:38,000ユーロ(約665万円)から
空冷モデルに別れを告げた996は、50年続いたPorscheの空冷エンジン時代に終止符を打つ。同時に、特徴的だった911の形状も大きく変化した。「目玉焼き」と呼ばれたヘッドライトはファンの情熱を冷まし、トップモデルのデザインはベースモデルの「Porsche Boxster」との類似性を指摘された。しかし、911は依然として優れた走行性能を発揮し、フェイスリフト後は空冷廃止の批判を乗り越えて成功を収めた。
弱点: 最大の課題はエンジン故障だ。3.4L(後に3.6L)のボクサーエンジンはピストンの傾きによるトラブルで評判を落としている。特に右側シリンダーに影響が出やすく、左側排気管はオイル燃焼で煤が出る。また、中間シャフトベアリングの故障も深刻で、エンジンオーバーホールには25,000ユーロ(約435万円)以上かかる。その他の問題も多く、財政的な“失敗”となりうる。
Type 997
・製造期間:2006年から2010年
・出力:325〜620PS
・中古価格:50,000ユーロ(約875万円)から
ヘッドライトは丸形デザインに戻ったが、技術は当初996から大きく変わらなかった。2008年のフェイスリフトで直噴エンジンを採用し、トランスミッションもトルコン式ティプトロニックからデュアルクラッチの「PDK」へと刷新された。
特に3.8L・385PSのSモデルは、「BMW M3(自然吸気V8・420PS)」に対して優位性を示した。また、特別仕様車の存在感も大きく、「Sport Classic」「Speedster」「GT3 RS 4.0」などは現在コレクター価格として最大50万ユーロに達する。
弱点: 専門家トビアス・ルードヴィヒ氏によれば、「997.1」でもピストンティッピング問題は深刻とのこと。点火コイルは熱と水しぶきの影響を受けやすい位置にあり、故障しやすい。「997」では冷却水関連の問題がさらに増え、腐食しやすい接続部のトラブルが多い。デニス・ノイマン氏によれば、「997.2」は明らかに安定性が向上しており、そのため中古市場でも高額だ。
Type 991
・製造期間:2011年から2019年
・出力:350〜700PS
・中古価格:65,000ユーロ(約1135万円)から
991では再びサイズが拡大し、全長4.56mに達した。重量増を避けるためアルミ構造が導入され、成功した。自然吸気エンジンはフェイスリフト(991.2)で3.0Lツインターボへ変更され、燃費・性能とも向上した。
ラインナップは大幅に拡大し、最上位の「GT2 RS」は700PSを誇る後輪駆動モデルだ。
弱点: 「991.1」のエンジンは「997.2」譲りで信頼性は高いが、複雑な制御が施された冷却水ポンプの故障が懸念される。漏れが発生するとヒーター制御弁など他部品へ悪影響が及ぶ。
「991.2」ではターボチャージャートラブルが追加され、オイル漏れやターボ損傷の可能性がある。
Type 992
・製造期間:2019年から
・出力:385〜650PS
・中古価格:100,000ユーロ(約1750万円)から
992は高いデジタル化を導入したが、ディスプレイはやや過剰という印象だ。タコメーターは中央にアナログで残る。エンジンは3.0Lターボを継承し、ホイールベースも同一だ。
新しい8速PDKはさらに迅速な変速を実現。992は低回転では穏やかに走行でき、サスペンションの硬さも控えめだ。
しかし、一転して野獣のような走りも見せ、サーキットでも鋭いコントロールが可能だ。特別仕様車の幅は拡大し、「Carrera T」「S/T」「Targa 4S Heritage Edition」「Dakar」「Sport Classic」など、日常からサーキット走行まで幅広いニーズに応える。
弱点: 技術的複雑性が大幅に増しており、アクティブエアロ、アシストシステム、四輪操舵など、多数の装備確認が必須だ。「Turbo」や「GT3」ではオイル消費が増える可能性があり、ソフトウェア更新時の問題、PDKの変速異常、アシスト誤作動などが起こりうる。
(Text by Auto Bild)