ポルシェをドイツのポルシェAGから輸入し、販売および保守管理を行っているのが“ポルシェジャパン”という会社だ。ポルシェ本体が100%出資するいわゆる「ポルシェの子会社」で、ドイツから送られて来たフィリップ・フォン・ヴィッツェンドルフ氏が社長を務めている。
外資系だからかどうか、この会社は非常に鷹揚で、今回の車両本体価格3099万円もする(ちなみに試乗車はオプション込みで3623万1000円)超高級車の試乗に際して、広報部長のK氏は「せっかくの“Dakar”ですから、オフロード走行も試してくださいね」とシレッと言った。いやあの3000万超のクルマじゃないですか……飛び石で傷でも付けたら大変だし……とこちらが答えに窮してヘドモドしていると、K氏は破顔一笑。「構いません。気にせずガンガン走っちゃってください」と続けるのだった。
今回試乗したクルマは「ポルシェ 911 Dakar」。
1984年のパリ・ダカールラリーでポルシェ初の総合優勝を果たした「911 Carerra 3.2 4×4 パリ・ダカール」の“後継モデル”として40年の時を経て販売された、世界限定2500台の超レア車である。
現行カレラの車高を50mm上げて最低地上高を161mmとし、ホイールアーチを拡大して大径タイヤを装着した特別仕立てのクルマ。エンジンとトランスミッションは、“まんま”Carerra 4 GTSのそれである。
911“らしくない”高い車高と大径でゴツゴツの厳しいオフロード用タイヤが目を引く。しかもカラーリングは往年のロスマンズカラーを模したツートンである。否が応でも目立つ。信号で先頭に止まると、歩行者から容赦なく指を指される。無遠慮なインバウンド客は、近寄ってきてバシバシと勝手に写真を撮って親指を立てて去って行く。お忍びのデートなど絶対にできないクルマである(遅い時間に少しだけしましたけどねww)。
オーバーフェンダーを纏い、デカく重いタイヤを履いているから、Carerra 4 GTSよりも鈍足かと思えばさにあらず。0-100km/h加速は3.4秒と優秀で、Carerra 4 GTSから遅れることわずかに0.1秒。ガラスやフード類、さらにはバッテリーまで軽量化し、リヤシートも省略しているので、重量増はわずか10kgの車両重量1605kg。EVやPHEVが増え、2トン超えが当たり前になった昨今。この実力でこの重量は素直に嬉しい。
標準装備のフルバケットシートに座る。固くタイトな“締めつけ感”が心地良い。
運転席から見る風景が普通のカレラとは大違い。5センチの差がこれほど大きいものかと驚くほどに、通常のカレラと視界が違う。見晴らしの良い911。実に新鮮な乗り心地だ。エンジンを掛けて走り出す。違和感は一切ない。
ベースとなるCarerra 4 GTSのタイヤサイズは、フロント245/35ZR20、リヤが305/30ZR21である。対するDakarのタイヤサイズはフロントが245/45R19、リヤが295/40R20。
オフロードタイヤで在るがゆえに扁平率が高い。当然タイヤはたわみやすくなる。教科書通りに行けば、コーナリング時のハンドリング性能は低下する…はずである。しかしDakar専用として開発されたピレリ・スコーピオン オールテレインプラスのサイドウォールとスレッドは2層のカーカスプライで補強され、しっかりと腰が強い。舗装路のコーナーにも“それなりの”速度で入り、安心して抜けていくことができる。クルマもすごいがタイヤもえらい。
せっかくの目立つクルマである。どうせなら週末の大黒PAに出かけて思い切り目立ってこよう。首都高に乗り、大黒を目指す。
大黒PAの入り口部分には大勢の「入待ち」客が陣取っている。
地味目のクルマはスルーされ、目立つクルマにはシャッターの嵐である。
超目立つDakarは当然後者。オスカーの入場よろしく写真と動画を撮られまくる。
パーキングススペースを探す。中にはクルマに着いて走ってくる人もいる。
車高を気にせず車止めにタイヤを当てられるのが良い。これなら歩道の段差も気にせずコンビニにも入れるだろう。
クルマを停める。瞬時に人だかりができる。ドアを開け外に出ると、「すごいクルマですね」「買ったんスか?すげー!」「今までに何台も買っていないと買えませんよね」と次々に声をかけられる。どこの国からやって来たのか、インバウンド客も多い。一緒に写真を撮った後に、握手を求めてくる人もいる。恐るべしDakar効果。どんな人でも乗ればスターである。
さすがのポルシェ。車高を上げても快適に安心して飛ばせる。しかもこのスター気分。
最高に楽しいクルマだ。問題は「買えない」ことだ。
何しろ世界限定2500台。当たり前だがすでにすべて「売り切れ」である。
中古車の価格はすでに7000万超えと聞く。
買えないクルマの記事を書いてどないすんねん!という話なのだが、たまにはこういう回があっても良いでしょう。楽しかったです。スミマセン役得です。
(Text by Ferdinand Yamaguchi & Photo by Ferdinand Yamaguchi / Toru Matsumura)