ポルシェは生まれついてのスポーツカーだが、GT部門が手を加えると別次元のダイナミックなレベルに生まれ変わる。718 Cayman GT4と911 GT3、はたしてAuto Bildが選ぶのは?
※この記事は「Auto Bild JAPAN Web」より転載したものです。
悩ましい選択
意地悪な比較だというのはわかっている。ニューモデルが発売されると、最新技術がどれだけ優れているかを示すために、既存のモデルを比較候補に挙げなければならない。
718 Cayman GT4は、911(当時は991.2シリーズ)のあらゆるコンポーネントを使用して設計開発を行ったGTカーだ。サスペンションとスプリングには軽量な素材を使用し、リヤアクスルに組み込まれたヘルパースプリングが常にプリテンションをかけ、システム全体の応答性と完成度を、さらに向上させている。
さらに、ミッドエンジンであるため、911に比べて、重心がかなり前方に押し出されている。718 Cayman GT4の重量の57%は依然としてリヤアクスルに掛かっているが、全体のドライビング特性は、より車体の中央部に集中している。とはいえ、718 Cayman GT4は、911 GT3ほど、レーシングラインに釘付けになる感じではないし、運転するうえで危機感を覚えることもない。
モデル | 718 Cayman GT4 | 911 GT3 |
---|---|---|
エンジン | 水平対向6気筒 ミッドシップ縦置き | 水平対向6気筒 リヤ縦置き |
排気量 | 3996cc | 3996cc |
ボア×ストロール | 102.0×81.5mm | 102.0×81.5mm |
圧縮比 | 13.0:1 | 13.3:1 |
最高出力 | 420PS/7600rpm | 510PS/8400rpm |
最大トルク | 430Nm/550rpm | 470Nm/6100rpm |
駆動方式 | 後輪駆動、7速デュアルクラッチ | 後輪駆動、7速デュアルクラッチ |
全長×全幅×全高 | 4456×1801×1269mm | 4573×2027×1279mm |
ホイールベース | 2484mm | 2457mm |
テスト時平均燃費 | 9.8km/l | 8.0km/l |
CO2排出量 | 232g/km | 283g/km |
ベース車両価格 | 101,205ユーロ(約1,315万円) | 170,969ユーロ(約2,222万円)より |
テスト車価格 | 119,498ユーロ(約1,553万円) | 190,246ユーロ(約2,473万円) |
718 Cayman GT4:高まるドライバーとの一体感
ツッフェンハウゼン製の2台のうち、小さいほうの718 Cayman GT4には躍動感があり、クルマがドライバーとより密接にコミュニケーションをとっている。タコメーターを通じて、次に何をしようとしているのか、ドライバーの小脳に囁きかけてくる。そしてこれは、PDKモデルで再び改良され、よりアグレッシブにグリップし、トラクションをより決定的に配分する機械式リヤアクスルロックによって、圧倒的なトラクションを生み出している。
一方、新型911 GT3がここザクセンリンクで大きなインパクトを与えることができるのは当然のことだ。たった90PSのパワーアップで、911 GT3は、718 Cayman GT4の小ささと俊敏さをもってしても、どうにもならないほどリードしているのだ。よりコンパクトなサイズにもかかわらず、718 Cayman GT4は992よりもやや重いのだから。
その違いはたった16kgだが、それ以上のものを期待したいところだ。前提条件は、それぞれのオプションリストが許すかぎり平等である。クラブスポーツパッケージ、セラミックブレーキシステム、ミシュランのスティッキーなカップ2タイヤ、PDK、そして優れたカーボンファイバーフルシェルのすべてが搭載されているのだ。しかし、通の人なら、シートのつくりが違うことに気づくだろう。新型911 GT3では、718 Cayman GT4よりも角張ったショルダーサポートが採用されている。
ポルシェが細部までつくりこんだ逸品
また、大きな違いというわけではないが、ボディシェルは先代から単純に引き継いだわけではない。ディテールを見ると、ポルシェの完成度は高く、本当に細部まで作り込んでいるのだと実感させられる。
少なくとも911 GT3では、テストを担当した全高1.96mの編集記者は、バケットシートに座ってみて、クルマとの一体感が少し増したと感じた。ドライバーに近い位置にあるミッドエンジンクーペの4Lエンジンは、単純により存在感のある音を奏でる。右耳の真後ろで、アイドリングストップや部分負荷時にカタカタと不審な音がするので、整備士がエンジンルームにキーを置き忘れてきたのかと思うほどだ。
しかし、他の優れたレーシングマシン同様、静止しているときは、まるで袋のネズミのような音だが、限界まで走らせると、すべてが突然、他の方法ではあり得なかったかのように噛み合う。2つの自然吸気ボクサーの回転数を上げると、ギアのつながりの感覚を実感する。
911 GT3がサーキットをリードする
一方、コース上では、911 GT3が、718 Cayman GT4のタイムをコンマ数秒縮めている。これは、数日前に同じコンディションでわれわれが出したタイムと同じだ。最初の角度のあるコーナーの組み合わせは直感的で、“オメガ”で回転数を上げておくと、出口でうまくリヤを回すことができ、トランスファーが機能し、“ラルフ ヴァルトマンコーナー”までの終わらない左カーブでは、エアロの効果を実感することができた。
しかし、911 GT3が最もタイムアップするのは、ハードブレーキと高いコーナリングスピードを維持し、パンチアップすることが同様に重要な最終セクターである。718 Cayman GT4とのラップ差は1.88秒。現在、800台以上あるザクセンリンクのランキングの中で、718 Cayman GT4は39位、911 GT3は15位ということだ。
加速もコーナリングも、すべてが911 GT3が速く、標準仕様の911よりも、さらに速い。また、100km/h時点から完全停止まで28.7m、200km/h走行時から完全停止まで109.8mというブレーキ性能は、まさにセンセーショナルなものだ。
最後に、この身内対決で、911 GTが勝利を収めるために、文字通り犠牲となる章がある。いうまでもなく、そのコストである。そう、この分野では普通、お金は従属的な役割を果たすものだが、7万ユーロ(約910万円)以上の差があるとなれば、否が応でも、それについて語らなければならなくなる。
スポーツドライビングファンにとっては、「ギリギリ買える」と「もう無理だ」の境目なのかもしれない。それが、運転が楽しいか楽しくないかの分かれ目だ。また、必ずしも「ケイマン」は12万ユーロ(約1,560万円)である必要はないのだ。マニュアルのギアボックスとスチール製ブレーキで、さらに1万ユーロ(約130万円)の節約になる。ということで、現実的な意味で、911のあらゆるコンポーネントを使用して設計開発された718 Cayman GT4のほうが、比較的リーズナブルな価格で、純粋的なドライビングファンを経験できるといえよう。それがわれわれの下した今回の結論だ。
(Text by Alexander Bernt / Photos by autobild.de)
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