Audi A5シリーズに初めて設定されたPHEV(プラグインハイブリッド車)、「Audi A5 Avant TFSI e-hybrid quattro S line」に試乗。EVとして日常の移動をこなしながら、遠出ではエンジンの安心感も手に入る。そんなPHEVならではの魅力は、新世代のAudi A5でどのように具現化されているのだろうか。実際に一般道や高速道路を走り、その実力を確かめた。
電気だけで100km強走れる
Audi A5シリーズは、従来のAudi A4シリーズとAudi A5 Sportbackを統合するかたちで誕生した新世代モデルだ。内燃エンジン車向けの新プラットフォーム「PPC(Premium Platform Combustion)」を初採用し、日本では2025年2月に導入。そして2026年5月、シリーズ初となるPHEVがラインアップに加わった。
今回試乗した「Audi A5 Avant TFSI e-hybrid quattro S line」は、そのステーションワゴンモデルである。
パワートレインは、最高出力252psを発揮する2.0L直列4気筒直噴ガソリンターボエンジンの2.0 TFSIと、最高出力143psの電気モーターを組み合わせ、システム最高出力は367ps、最大トルクは500Nm。0-100km/h加速は5.1秒という俊足を誇る。
リチウムイオンバッテリーは総電力量25.9kWh、正味容量20.7kWhで、Avantの場合、EV走行可能距離はWLTCモードで最長108km。駆動方式にはAWDクラッチ式のquattroを採用する。
装備も充実しており、S line仕様をベースに、テクノロジーパッケージプロやライティングパッケージ、ダークAudi rings & ブラックスタイリングパッケージなどを標準装備。助手席用10.9インチMMIパッセンジャーディスプレイやダンピングコントロールSスポーツサスペンションなども備えている。
そもそもPHEVとは?
PHEV(プラグインハイブリッド車)は、エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムに、外部から充電可能な大容量バッテリーを搭載したモデルだ。EVとして一定距離を走行できる一方、長距離ではエンジンを併用できるのが特徴である。
つまり、日常の移動はできるだけ電気で済ませ、バッテリー残量を気にしたくない長距離ドライブではエンジンを活用するという、EVとハイブリッド車の“いいとこ取り”を狙ったクルマといえる。
Audi A5 Avant TFSI e-hybrid quattro S lineの場合、EV走行可能距離が100kmを超えているだけに、PHEVといってもEVとして使える場面はかなり多そうだ。
エンジン車と異なる細部
外観は基本的にAudi A5 AvantのS lineと共通で、ひと目見ただけではPHEVであることを強く意識させない。
違いがわかりやすいのはボディサイドだ。給油口とは別にボディ左側に充電口とフラップが設けられており、ここがPHEVであることを物語っている。
ステーションワゴンらしい実用性を備えながら、低く構えたスタイリングはスポーティ。PHEVだからといって特別感を前面に押し出すのではなく、あくまでAudi A5 Avantの魅力をそのままに、さりげなくPHEVに仕立てあげられているという印象だ。
インテリアはS lineらしいスポーティさに加えて、上質感もしっかりと演出されている。
ラグジュアリーパッケージ Sファインナッパレザーのオプションが装着される試乗車は、ダッシュボードにスエード調の「ダイナミカ」をはじめ、グロスブラックのパネル、マットシルバーのエアアウトレットなどが装着され、実に上質にまとめ上げられている。大型のディスプレイも視認性に優れている。
個人的にうれしかったのが、ステアリングホイールのスイッチの一部に物理式の回転ダイヤルが採用されていること。タッチ式では意図せず操作してしまうことがあっただけに、確実に操作できるのはありがたい。なお、これは2026年モデルのAudi A5シリーズにも採用されている。
興味深いのは通常のAudi車との違いとして、運転席側ドアに給油口を開けるためのスイッチが用意されていることだ。
通常のAudi車は、フューエルリッドを直接押して開ける仕組みで、車内に給油口を開くためのスイッチはない。一方、PHEVでは給油前に燃料タンク内の圧力を調整する“エア抜き”が必要なため、運転席側ドアに設けられたスイッチを操作する。
スイッチを押すと自動的にエア抜きが始まり、完了するとフューエルリッドが少し開いて給油できる状態になる。エア抜きには数分かかる場合があり、その間はインフォテインメントディスプレイに表示されるメッセージで進行状況を確認できる。
PHEV化による影響が見られるのがラゲッジスペースだ。
ラゲッジルーム下にバッテリーを搭載する関係で、通常モデルに比べるとフロア位置は高い。それでもフロアはバンパーとほぼ同じ高さにあり、荷物の積み降ろしはしやすい。
さらに、後席を倒した際にもフロアとの間に大きな段差ができないため、長尺物も積みやすい。
床下収納がないのは少し残念だが、そこはもともと荷室の広さが魅力のAvant。床下スペースがなくても十分な実用性を確保しているのはうれしいところだ。
EVモードなら100km以上の移動も電気だけで
Audi A5 Avant TFSI e-hybrid quattro S lineには、「EV」と「ハイブリッド」の2つの走行モードが用意されている。
まずはEVモードを試した。
アクセルペダルを踏み込むと、車両重量2150kgという重量級のボディをモーターが軽々と加速させる。街なかはもちろん、高速道路でも力不足を感じることはなく、120km/hまで余裕のある加速を見せてくれた。
実際の走行でもEVモードで100km以上の航続距離を確認できた。比較的空いた一般道を中心に走行した際の電費は5.4km/kWh。車両サイズや重量を考えればまずまずの数字だろう。
EVモードで走行中、バッテリー残量が6%になると航続距離は0kmを表示。その後、残量が5%まで低下したところでEVモードが解除された。写真はEVモード解除後、約3km走行した時点のデータ。今回の試乗では、EVモードで100km以上走行できることを確認した。
EVモードでは、回生ブレーキはステアリングホイールのパドルで調整可能だが、使っていて便利だったのが「自動回生」だ。前走車や道路状況などに応じて回生の強さを自動的に調整してくれるため、ドライバーが細かく操作しなくても効率的かつ自然に速度をコントロールできる。
自動回生はMMIディスプレイの設定画面でオン/オフが可能。個人的にはステアリングホイールのスイッチで簡単に切り替えられるようになると、さらに使い勝手が良くなると感じた。
ハイブリッドモードでもモーターが活躍
ハイブリッドモードに切り替えても、基本的に発進はモーターが担当する。
しかも、バッテリー残量に余裕があれば、ハイブリッドモードでも積極的にバッテリーの電気を使うモーター走行の割合が高い。走行条件によっては高速道路でもモーターだけで巡航し、短距離の移動なら結局エンジンを一度も始動せずに目的地に着くことさえある。
ハイブリッドモードの特徴的な機能が、高電圧バッテリーの目標充電レベルを任意に設定できることだ。
現在の充電量より低く設定すれば、モーターとエンジンを効率よく使いながら走行し、目標値に達したあとはその充電量を維持する。現在と同程度に設定すると、主にエンジンで走行してバッテリー残量をキープ。さらに、現在の充電量より高く設定すれば、エンジンで走行しながらバッテリーを充電することも可能だ。ただし、そのぶん燃料消費量は増加する。
目標充電レベルは最大80%まで設定でき、100%まで充電するには外部充電が必要となる。
たとえば、キャンプ場などで、アイドリングせずにエアコンを使いたいといった場合、途中の走行でバッテリー残量を温存し、到着後にEV走行へ切り替えるといった使い方ができる。PHEVのメリットを自分のドライブプランに合わせて活用できる機能だ。
バッテリー残量が設定した目標充電レベルを下回っていたり、その付近にあったりすると、エンジンが始動する割合は増えていく。それでも加速時にはモーターがアシストするため、アクセルペダルの操作に対する反応は素早く、力強い。
367ps、500Nmというシステム性能は伊達ではなく、少し強めにアクセルペダルを踏み込めば、重量級のボディを一気に前へ押し出す。
一方、巡航に移ればエンジンの存在感は控えめだ。エンジンが作動していてもエンジン音は小さく、静粛性は高い。そのぶん路面によってはロードノイズのほうが気になるほどだった。
バッテリーを使い切ったという設定で高速道路を100km/hで巡航した際の燃費は20.6km/Lで、高速巡航では良好な燃費性能を確認できた。
快適な乗り心地
2150kgの試乗車は、ダンピングコントロールSスポーツサスペンションが組み合わされたことで、一般道では比較的マイルドな乗り心地であり、十分な快適性が確保されている。荒れた路面ではタイヤからコツコツと軽いショックが伝わってくることもあったが、日常的に使っていて不満を感じるレベルではない。
一方、高速道路に入ると、速度が上がるほどボディの動きが落ち着き、概ねフラットな姿勢を維持する。コーナリング時のロールも小さく、2150kgという車両重量を意識する場面は少ない。
高速巡航時の安定感は高く、長距離を走るAvantとして見れば、この落ち着いた乗り味は大きな魅力だ。
6kWの普通充電も確認
今回は6kWの普通充電器を使って充電を行った。
充電を開始すると、ほぼ額面どおりの6kWで充電されていることを確認できた。通常の3kWでも7時間もあれば満充電にできる計算で、1日の移動が100km弱であれば、ふだんガソリンスタンドに行く機会はほとんどなくなるかもしれない。
一方、長距離ドライブではエンジンを使えるため、充電スポットや航続距離を必要以上に気にする必要はない。しかも、ひとたびアクセルペダルを踏み込めば、Audi S5並みの力強い加速が楽しめる。それでいてハイブリッドモードの燃費も良好なのもうれしいところだ。
「EVには興味がある。でも、長距離を走るときの充電にはまだ少し不安がある」そんな人にとって、普段は100km近くをEVとして走り、必要になればガソリンエンジンの力を借りられるAudi A5 Avant TFSI e-hybrid quattro S lineは、現時点でとても現実的な選択肢のひとつだろう。
(Text & Photos by Satoshi Ubukata)