3代目に生まれ変わったAudiのミッドサイズSUV「Audi Q5」シリーズのなかから、世界限定モデル「Audi Q5 edition one」を試乗。その進化のほどは?

縦置きエンジンレイアウトを採用するAudiのミッドサイズSUVがAudi Q5。2008年にデビューした初代が累計約160万台のセールスを記録し、続く2代目も約110万台を販売するなど、このセグメントを代表する1台といってもいいモデルである。

最新の3代目も引き続き縦置きエンジンレイアウト採用するが、ポルシェと共同開発したPPC(Premium Platform Combustion)アーキテクチャーに基づいているが新しいところだ。2代目で追加されたクーペスタイルの「Q5 Sportback」もフルモデルチェンジと同時に登場している。

日本では2025年7月に新型が発売された新型Audi Q5については、上記のニュースをご一読いただくとして、今回試乗したのは、新型Audi Q5シリーズの発売を記念して、日本にも導入された世界限定モデルの「Audi Q5 edition one」。ターボディーゼルエンジン搭載の「Audi Q5 TDI quattro 150kW」のS lineパッケージ装着車をベースに、ダーク Audi rings & ブラックスタイリングパッケージ、ライティングパッケージ、テクノロジーパッケージプロ、edition one専用デザインのフロントエアインレットとディフューザートリム、21インチのブラックメタリックポリッシュトのAudi Sport製マルチスポークSデザインアルミホイールなど、装備満載の魅力的なモデルである。

大きく変わったインテリア

新型Audi Q5は、象徴的なシングルフレームグリルによりひと目でAudiファミリーとわかる特徴を示しながら、よりシャープになったヘッドライトやリヤコンビネーションライトなどにより、精悍かつ先進的な印象を強めている。

エクステリア以上に新しさを感じるのが、新型Audi Q5のコックピットだ。湾曲したMMIパノラマディスプレイとMMIパッセンジャーディスプレイが最新世代のAudiであることを強く訴えてくる。

物理スイッチを減らすことですっきりとしたデザインに仕上がっているぶん、「操作しにくいのでは?」と心配になるかもしれない。しかし、実際に使ってみると、必要な機能は比較的簡単にアクセスできるとともに、湾曲したセンターパネルのおかげで運転席からは見やすく、タッチもしやすいのがうれしいところだ。

助手席正面にあるMMIパッセンジャーディスプレイはパッセンジャーからは見やすいうえに、走行中でもYouTubeの視聴が可能だった。一方、走り出すとドライバーからは見えなくなるので、よそ見運転の心配はない。ナビを操作することも可能で、試乗の際もパッセンジャーに目的地を設定してもらえるなど、利便性も高い。

ミラーの調整に加えて、ライトやシートメモリーのスイッチがドア側に集約されているのも新しいところだ。この位置だと運転中の操作はしにくいが、ライトに関してはAUTOのままで大抵は済み、心配するほど困らなかった。

ただ、ドアを閉めるためのグリップがなく、パワーウインドーのスイッチの奥に手を入れるにも幅が広すぎて扱いにくいのが玉にきずだ。

全長4715×全幅1900×全高1655mm、ホイールベース2870mmの余裕あるサイズのボディだけに、このクラスSUVとしては十分な室内スペースが確保されている。後席はスライドやリクライニングが可能で、荷物が多いときにシートを前方にスライドさせても大人がぎりぎり座れるスペースが確保されている一方、いちばん後ろの位置なら大人でも足が組めるほど余裕がある。頭上のスペースも十分で、窮屈さとは無縁である。

ラゲッジスペースは通常時でも約100cmの奥行きがあり、さらに後席を倒せば180cm近くまで拡大が可能になるなど、ボディサイズ相応の広さが確保されている。

頼りになる2.0 TDI

Audi Q5 TDI quattro 150kWがベースとなるAudi Q5 edition oneには、最高出力150kW(204ps)を発揮する2.0 TDIエンジンが搭載され、これに7速Sトロニックとquattroが組み合わされる。

見どころのひとつが「MHEV plus」と呼ばれる新しい48Vマイルドハイブリッドシステムが搭載されたこと。詳しくは下記の記事をご覧いただくとして、これまでのマイルドハイブリッドシステムとは異なる動きを見せてくれた。

ブレーキペダルから足を離すと、クルマはゆっくりとクリープを始める。これまでならエンジンが始動し、クルマが動き出したのが、新型Audi Q5ではすこし様子が違う。クルマが動き出したあとにエンジンが遅れて始動するのだ。これは、エンジンが十分に暖まっている状態では、発進をMHEV plusのモーターであるPTG(パワートレインジェネレーター)が担当するためで、距離こそ短いが電気だけで走ることができるのだ。そのぶん発進はスムーズで、エンジン始動の煩わしさも感じずにすむのがうれしい。

さらに、PTGのおかげでアクセルペダルの操作に対する反応も素早く、力強いトルクを発揮する2.0 TDIエンジンがさらに活発さを増したような印象である。しかもこの2.0 TDIエンジン、ディーゼルエンジン特有の振動やノイズがきっちりと抑えられており、快適さの点でも申し分がない。

MHEV plusを搭載することで、走行中にアクセルペダルを緩めるとエンジンが完全停止する場面が頻繁に発生する。軽い加速ならPTGだけで走行することも可能で、よりスムーズで静粛性の高い運転が楽しめるのがいい。

マイルドハイブリッドシステムでは、減速時にエネルギーを回収する回生ブレーキと、通常の機械式ブレーキを協調制御するものが多く、このMHEV plusも例に漏れない。その場合、フットブレーキを使用したときに踏力が不連続だったり、感触に違和感があることもあるが、Audi Q5については違和感はなく、自然なブレーキ操作ができたのは案外見逃せない。

一方、乗り味については不満が残る。Audi Q5 edition oneには255/40R21タイヤが装着され、標準の18インチに対して3インチ、S lineパッケージ装着車に対して2インチのインチアップとなった。そのせいもあって、低速でも少し路面が荒れただけでショックを拾い、また、高速走行時も落ち着きのなさが目立ってしまった。

最新のAudi Q5の場合、電子制御に頼らず、ショックの種類により減衰力を調整するFSDダンパーが搭載されているが、さすがに3インチのインチアップに対してはその実力を発揮できないようだ。オプションのエアサスペンションが装着されればまた印象が変わるだろう。

そのあたりについては、今後他のカタログモデルで確認したいと思うが、デザイン、パッケージング、そしてパワートレインなど、明らかに魅力を増している新型Audi Q5。全車quattroという安心感も手伝い、ミッドサイズSUVの購入を考えている人にとっては外せない選択肢となるはずだ。

(Text by Satoshi Ubukata / Photos by Satoshi Ubukata, Audi Japan)