EV(電気自動車)にとって欠かせない機能が「回生ブレーキ」。通常のブレーキでは熱として失われてしまうエネルギーを再利用することで、電費(エネルギー効率)を高める重要な役割を担っています。ただ、使い方を誤るとかえって電費が悪くなることも!? そこで、回生ブレーキに対する誤解を解くとともに、電費が良くなる運転方法を紹介します。
エネルギーを再利用して電費向上に寄与
EVに搭載される回生ブレーキは、クルマを減速させるという点では通常のブレーキと同じ役割ですが、その仕組みはまったく違うものです。通常のブレーキ、いわゆる機械ブレーキ(摩擦ブレーキ)は、ブレーキペダルを踏むとブレーキパッドがディスクを挟み込み、摩擦の力で車輪の回転を止めます。このとき、クルマの運動エネルギーを熱エネルギーに変えることで運動エネルギーが減少し、スピードも落ちますが、熱エネルギーは空気中に放出されてしまうため、減速のたびにエネルギーが捨てられていました。
これに対して回生ブレーキは、減速時にモーターを発電機として働かせ、クルマの運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、バッテリーに戻す仕組みです。これにより、通常のブレーキで捨てられてきたエネルギーを再利用することができます。しかも、発電による抵抗がブレーキの役割を果たすため、クルマをスムーズに減速させながら充電も行えるのです。
ただし、回生ブレーキだけでは急停止に必要な制動力を得られないため、多くのEVでは機械ブレーキと回生ブレーキを電気的に協調制御しています。これにより、安全性と効率性を両立しながら、ブレーキパッドの摩耗も抑えることができます。
つまり、通常のブレーキが「止めるための仕組み」であるのに対し、回生ブレーキは「止まりながら電気をつくる仕組み」であり、EVのエネルギー効率を高めるうえで欠かせない技術といえます。
使い方を誤るとかえって電費が悪くなる!?
それだけに、「回生ブレーキをたくさん使えば使うほど電費が良くなる」と考えている人は多いのではないでしょうか? でも、それって実は誤解です! 回生ブレーキは減速で失われる運動エネルギーの一部を取り戻す仕組みですが、無闇に使うとかえって電費を悪化させることになるのです。
赤信号や下り坂など、どうしても減速が必要な場面では、回生ブレーキは電費向上にとても有効です。一方、比較的平坦な道路を走る場合は、回生ブレーキの使い過ぎは禁物です。
その理由を、速度を一定に保つように走ったときと、加減速を繰り返したときの電力消費を比較しながら考えてみましょう。
グラフは上が速度を一定に保つように走ったとき、下は極端な例ですが、60〜50〜60km//hと加減速を繰り返したときの電力を示しています。黄色く塗られているのが消費される電力で、緑が回生ブレーキで回収される電力です。数字はあくまでイメージですが、速度を一定に保つように走ったときのほうがトータルの電力消費が少ないのがわかるでしょうか。
そもそも、EVを含むあらゆるクルマにおいて、加速はもっともエネルギーを消費する動作です。クルマを加速するには、重たいボディに力を加えて、運動エネルギーを増す必要があり、そのぶんだけ大きな電力が必要になります。これに対して、目標としたスピードに達したあとに一定の速度を保つような走り方なら、空気抵抗や転がり抵抗といった走行抵抗を打ち消す程度の力だけで走り続けることができるため、はるかに少ない電力で移動できます。つまり、頻繁に加減速を繰り返すよりも、速度を一定に保って走るほうが圧倒的に効率が高いのです。
しかも、回生ブレーキはエネルギーを100%回収できません。たとえば、加速に100のエネルギーを使っても、回生で取り戻せるのは多くて30前後です。残りの70は空気抵抗や転がり抵抗、変換ロスとして失われます。したがって、ブレーキをたくさん使うということは、それだけ加速を多く行い、結果的に余分なエネルギーを浪費しているということになるのです。
回生ブレーキを強く設定するとアクセルオフだけで減速でき、「電気を取り戻している感覚」を強く得ることができます。確かにそのたびに回生ブレーキで電力を少しは取り戻せますが、全体として見れば「使う量>戻る量」ですので、無闇に繰り返せばエネルギーの損失は増える一方です。
それではEVの電費を良くするにはそんな走りが良いのでしょうか? カギは「どれだけ回生できるか」ではなく、「どれだけ回生を使わずに運転をできるか」です。
理想的な走り方は、先の信号や交通の流れを読み、アクセルを一定に保ちつつ、できるだけ速度変化を少なく走ることです。惰性を活かしたスムーズな走行では、モーターの出力を抑えながら、空気抵抗や転がり抵抗に見合う最小限のエネルギーで移動できます。これは物理的にも、バッテリー消費の面でも、もっとも効率的な運転なのです。
そのためには、きめこまかなアクセルワークが必要ですが、それが難しいという人は、回生ブレーキを使わない設定のほうが電費が良くなるかもしれません。
前述のとおり、いまどきEVでは、回生ブレーキと機械ブレーキの協調制御が進化しています。ドライバーがフットブレーキを踏んだとき、まずモーターの回生でできるかぎり減速し、不足分だけディスクブレーキを使う仕組みです。これにより、意識的に回生ブレーキを使わなくても、通常のブレーキ操作で自動的にエネルギー回収が可能ですし、必要以上の加減速も抑えられます。
イラストの「Audi Q4 e-tron」では、パドル操作で回生レベルを段階的に調整できる一方で、ブレーキペダル操作時にもこの協調制御が働き、無理のない範囲でエネルギーを回収します。ドライバーが特別な操作を意識しなくても、システムが自動的に電費を悪化させない減速を行うのです。
つまり、電費を良くする最も確実な方法は、「どれだけ回生するか」ではなく、どれだけ加減速を減らして走れるかです。なめらかな加速、一定速度の維持、先読みした穏やかな減速……これらを意識することが、EVの電費向上につながります。これはハイブリッド車やプラグインハイブリッド車にもあてはまります。これまで回生ブレーキを使い過ぎていたという人は、運転スタイルを見直して、電費や燃費の良い走り方を探ってみてください。
(Text by Satoshi Ubukata)