2025年春に日本に上陸したプレミアムミッドサイズSUVタイプのBEV「Audi Q6 e-tron」に試乗。AudiとPorscheが共同開発した新プラットフォーム「PPE」の出来映えは?
Audi Q6 e-tronは、全長4,770×全幅1,940×全高1,695mmと、「Audi Q5」よりひとまわり大きなサイズのボディを持つSUVスタイルのBEVだ。AudiとPorscheが共同で開発するEV専用プラットフォーム「PPE(Premium Platform Electric)」を採用しており、「Porsche Macan EV」とは基本設計を共有している。
2025年春から日本でも販売がスタートしたAudi Q6 e-tronについては、上記のニュースをご一読いただくとして、今回試乗したのは前後あわせて2基のモーターによりquattroを構成するAudi Q6 e-tron quattro advancedだ。試乗車には、スポーティな内外装が人気の「S lineパッケージ」と、MMIパッセンジャーディスプレイやBang & Olufsen 3Dプレミアムサウンドシステムなどを含む「テクノロジーパッケージ」などのオプションが装着されている。
見やすく使いやすいMMIパノラマディスプレイ
運転席に座った瞬間、このクルマがAudiの最新技術でつくられていることを強く意識させられる。大きく湾曲したMMIパノラマディスプレイと、オプションのMMIパッセンジャーディスプレイによって、デザインを一新したコックピットが実に新鮮なのだ。
物理スイッチを極力減らしたおかげで、すっきりとしたデザインに仕上がっているが、そのぶん「操作しにくいのでは?」と心配になるかもしれない。しかし、実際に使ってみると、必要な機能は比較的簡単にアクセスできるとともに、湾曲したセンターパネルのおかげで運転席からは見やすく、タッチもしやすいのがうれしいところだ。
オプションのMMIパッセンジャーディスプレイは助手席の正面にあるので、パッセンジャーからは見やすいうえに、走行中でもYouTubeの視聴が可能だった。一方、走り出すとドライバーからは見えなくなるので、よそ見運転の心配はない。
オプションのテクノロジーパッケージにはBang & Olufsen 3Dプレミアムサウンドシステムが含まれており、期待どおりのクリアなサウンドが楽しめるうえ、前席のヘッドレストにもスピーカーが埋め込まれるおかげで、臨場感に溢れているのも見逃せない。さらに、ナビゲーションのナレーションを運転席のみに出力できるのも便利である。
Audi Q6 e-tronでは、ミラーの調整に加えて、ライトやシートメモリーのスイッチがドア側に集約されているのも新しいところだ。この位置だと運転中の操作はしにくいが、ライトに関してはAUTOのままで大抵は済み、心配するほど困らなかった。
全長4770mm、ホイールベース2895mmの余裕あるサイズのボディだけに、このクラスSUVとしては十分な室内スペースが確保されている。後席は大人でも足が組めるほど余裕があり、頭上も窮屈さを感じないくらい広い。ラゲッジスペースはボディサイズ相応の広さという印象だが、フロアの奥が少し傾斜しているのが気になる。ボンネット下には“フランク”と呼ばれる収納も用意され、普通充電のケーブルなどを収めておくには好都合だ。
洗練されたパワートレイン
センターコンソールのシフトスイッチの先にはSTART/STOPのスイッチが見えるが、これを押さなくても、ブレーキを踏んでシフトスイッチでDレンジやRレンジを選べばすぐに走り出せるのは「Audi Q4 e-tron」と同様だ。
さっそくDレンジにシフトしてブレーキから足を離すと、Audi Q6 e-tronはゆっくりと動き出した。ここから軽くアクセルペダルを踏んでやると、2.4トン強のボディが軽々と加速するのが実に爽快である。アクセルペダルの操作に対するモーターの反応は鈍すぎず、鋭すぎずで扱いやすく、細かい加減速を繰り返す街中でも、ストレスとは無縁である。
アクセルペダルを思い切り踏み込むと、伸びのある余裕ある加速が楽しめる。加速時の挙動も安定し、高速道路の合流などで安心して加速していけるのはquattroの美点である。
走行中にアクセルペダルを緩めたときに動作する回生ブレーキは、これまでのe-tronとは少し違っていた。Dレンジでは、設定画面で「自動回生」を有効にすると、先行車との距離にあわせて自動的に回生ブレーキの強さを調整してくれるのが便利。ただし、先行車がいないとアクセルペダルから足を離しても回生ブレーキが働かないのが要注意だ。そういった場合は、パドルを操作することで一時的に回生ブレーキを利かせることもできる。「自動回生」を無効にすると、パドルを使って回生ブレーキの強さをコースティング、弱め、強めの3段階で調整が可能だ。さらに走行中はパドルを再操作しないかぎりは強さが保持されるので、自動回生ではなく、好みの強さで乗りたいという人には好都合だ。
新しいのがBレンジの動き。Dレンジの強めよりもさらに強い回生ブレーキを利かせることが可能なうえに、Audiのe-tronとしては初めて、いわゆる“ワンペダルドライブ”が使えるようになった。すなわち、アクセルペダルの操作だけで加減速が行え、さらにアクセルペダルから足を離せば、ブレーキペダルを踏まなくても車両を停止させることが可能だ。回生ブレーキは強めに利くが、それでも驚くほど急に減速することはなく、使いにくいとは思わなかった。
ワンペダルドライブをシフトスイッチだけで切り替えられるのもうれしい点で、私は自動回生を有効にして、高速ではDレンジ、一般道ではBレンジと使い分けた。駐車時はクリープ走行が可能なDレンジが好ましいが、これもシフトスイッチひとつで切り替えられるのが助かる。
乗り心地に改善の余地あり
Audi Q6 e-tron quattro advancedには前後ともに5リンク式サスペンションが搭載される。タイヤサイズは前235/65R18、後255/60R18が標準だが、S lineパッケージが選択された試乗車の場合、タイヤは255/50R20と285/45R20と2インチアップ。さらによりスポーティな味付けのSスポーツサスペンションが奢られる。
そんな試乗車の走りは、タイヤと路面のコンタクトはスムーズで、SUVに見られがちな大きなロールやピッチングはよく抑えられているのが好ましいところ。その一方で、路面からのショックを拾いがちで、道路の継ぎ目が連続する首都高速では常にクルマが前後に揺さぶられることになり、快適とはいえない状況だった。東名高速に入っても細かいピッチングが気になり、もう少し落ち着きがほしいと思った。S lineを選択しない場合や、エアサス仕様ではおそらく乗り味が変わるはずで、S lineを選ぶなら同時にエアサスを組み合わせたほうが良いのではないだろうか。
高速走行時の直進安定性はまずまずで、ロードノイズや風切り音もよく抑えられている。SUVスタイルを採用するとはいえ、高速走行は得意である。
気になる電費と急速充電性能は?
Audi Q6 e-tron quattro advancedには100kWhの大容量バッテリーが搭載され、WLTCモードの一充電走行可能距離は644kmを誇る。単純計算で1kWhの電気で6.4km走る計算だ。
今回は高速道路をメインに走行したが、往路は東名高速の東京料金所から新東名を経由し、伊勢湾岸道のみえ川越インターまで、ACCを制限速度(100km/hを超える区間は100km/hに設定)にセットして走ったところ5.7km/kWhを記録。帰路は新東名の120km/h区間をACCを120km/hに設定して走行し、4.8km/kWhという電費だった。残念ながら一般道の電費はチェックできなかったが、トータルでは886kmを走り、総平均電費は5.1km/kWh。ボディサイズやパフォーマンスを考えれば優秀な数字といえるだろう。
個人的に興味があったのが充電性能で、バッテリー残量が20%になったところで、ポルシェの“ターボチャージャー”(150kW)を利用したところ、充電電力は120kWから少しずつ上がってバッテリー残量が70%あたりで136kWに達し、その後は少しずつ出力が落ちていった。20%から80%までに要した充電時間は28分で、平均120kW強のペースで約60kWhが追加されるという充電能力の高さは、経路充電が必要な移動では実に心強い。
結論
Sスポーツサスペンションと20インチタイヤの組み合わせには、もう少し落ち着きと洗練されたマナーがほしいところで、今後の熟成に期待するとして、システム出力285kWの電動パワートレインによる力強く爽快な走りや、優れた充電性能、使いやすい操作系などに、Audiの新世代e-tronとPPEの実力の高さを実感した。近く発表予定の「Audi A6 e-tron」にも期待が高まる。
(Text & Photos by Satoshi Ubukata)