2018年にAudi e-tronを発表して以来、最近では、S1 HoonitronやFormula 1ショーカーなどのプロトタイプやワンオフモデルに、いわゆる「リヴァリー(カラーリング)デザイン」と呼ばれる個性的なデカールを採用してきた。すでにデカールによる特別なエクステリアをもつ20台以上の車両をすでに発表している。これらはすべて、Audi AG デザイン ブランディング 責任者 マルコ ドス サントス氏によるものだ。

マルコ ドス サントス氏は、1987年にドイツ人の母親とブラジル人の父親の間にミュンヘンで生まれる。高校卒業後は、地元でデザインを学び、2014年からAUDI AG デザイン ブランディング部門に所属。主にe-tron、AI、モータースポーツの各モデルを担当する。自動車の世界を超えて、彼はフリーランスデザイナーとしても活動しており、ロゴ、製品、ポスターのほか、音楽業界のゴールドアーティストやプラチナアーティストのアルバムカバーを制作している。

マルコ ドス サントス氏は「アウディのデザイン言語は、Audi Q6 e-tronで次のステップへと進化しています。それをデカールで明確に表現しています。それぞれの車両の構造とキャラクターは独自の個性を備えており、デカールのデザインもそれぞれ異なります。デカールを製作する作業は、車両のどの要素を強調したいかを決めることから始まります」と述べる。

Audi Q6 e-tronのプロジェクトでは、2018年に発表されたAudi e-tronの印象的なデカールで広く知られているネオンレッドカラーなど、以前のデザイン要素も活用しながら、新しい表現を試みている。

またドス サントス氏は「基本的に、私たちはデカールにより、ニューモデルに関する“会話”を始めたいのです。この“会話”を世界中で行うことで、私たちのデザイン言語のユニークさを示すことができます。特定のデザイン要素は、国によって受け取り方が異なりますが、最終的に、デザインはどこでも機能するか、どこでも機能しないか、のどちらかです」と述べている。

ドス サントス氏が重要な要素を強調するための形状とは?

Audi Q6 e-tronの場合、大きなグラフィックスにより、一目でこの車両がプロトタイプであることが判別できる。ドス サントスは、例えデカールが施されていても、この車両のデザインは「高度な機密状態にある」と考える。

「プロトタイプに関して言えば、デカールは、まだほとんど公開されていないデザインの秘密について話し合う機会を生み出します。これにより、特定の側面を明確にしながらも、曖昧さを残すことができます」 と同氏は語る。

このデカールでは、グロス フィアス フクシア(Gloss Fierce Fuchsia)と呼ばれる光沢のある赤紫による大きな放射状グラフィックスと、シルバーの幾何学的メッシュとストライプのグラフィックスを組み合わせている。形状は互いに滑らかに流れ込み、車両の構造の重要な要素を強調する。

下部ロッカーパネルは、ホワイトを採用することによりボディから際立っており、電気ドライブによるゼロエミッションの走りを設計の中心に据えるAudi e-tronの哲学を強調。5アームのダイナミックホイールとシングルフレームも完全なホワイトになっている。「e-tronパワーストライプ」と呼ばれるネオンレッドのアクセントが、ロッカーパネルの上部を強調しており、電気自動車の心臓部となる、バッテリーを搭載するエリアであることを表している。

別のスタイリッシュなネオンレッドのラインがリヤの周囲に配置され、傾斜するDピラーを支えるボディの輪郭となるquattroブリスターを強調する。「テクノロジーの見える化」は、アウディデザインの原則でもある。緻密なメッシュのグリッドがボディの上端に沿って走り、車両の高度なテクノロジーを表現する。またサイドウィンドウは、Dピラーを除いて、ブラックで統一されている。

ドス サントス氏「デカールは、あらゆる角度から見て機能する必要がある」

デカールのデザインプロセスは、それぞれの車両で同じように行われ、エクステリアデザイナーによる詳細なレンダリングにより、チームは協力しながら、モデルを構成する要素とボディのどの部分に焦点を当てるかを決定する。その目的は、デカールを通じてモデルの特徴を抽象的に反映し、視覚的に強化することだ。

ドス サントス氏のデザインプロセスは、紙にたくさんの手描きのスケッチを描き(頭脳、ペン、そして手のつながりにより、描いたイメージをペンで表現することが必要)、画像およびグラフィックソフトウェアを使用して最終的に車両に具現化する。

車両は完全にデカールで覆われ、細心の注意と精度が要求されるため、このプロセスには数日かかる。作業のこの段階で「多くのアイデアが捨てられ、再考され、あらためてデザインされます」とドス サントス氏は語る。

最終的に、ドス サントス氏は、そのモデル専用のカスタムスーツを作成するように、カラーリングのデザインが車両のさまざまな形状に完全に一致するまで作業を続けます。「それは全世界にひとつ、このモデルだけにしか存在しません」と語る。

(Text Toru Matsumura)