「Audiといえばquattro」というくらい、ポピュラーな存在がフルタイム4WDシステムのquattro(クワトロ)です。ブランドを象徴するこの技術を搭載した新型車が誕生したのは、ちょうど40年前、1980年3月のジュネーブショーでした。

Audi RS 4 Avant

その後、Audiはquattroを搭載するモデルを増やし、2019年までに約1050万台のquattroを世に送り出しました。2019年だけでも80万台強のquattroを生産し、全生産台数のうちquattroは約45%を占めています。

最初のモデルは、その名もずばり「Audi quattro」です。“ビッグ・クワトロ”や“オリジナル・クワトロ”と呼ばれるこのクルマは、当時、悪路や雪道を走るための手段と見なされていた4WDのイメージを覆し、フルタイム4WD技術により2WDではなし得なかったスポーティな走りを実現しました。

Audiは、その実力を証明するためにWRC(世界ラリー選手権)にAudi quattroを投入することにしました。1981年、Audi quattroは、開幕戦となるラリー・モンテカルロでは途中リタイアを喫しますが、第2戦のラリー・スウェーデンではハンヌ・ミッコラ(フィンランド)がドライブするAudi quattroが初勝利を果たします。スウェーデン人以外のドライバーがこのラリーで勝利するのは初めてとあって、Audi quattroとミッコラには注目が集まりました。

参戦2年目にはマニファクチュアラーズ・チャンピオンに輝き、WRCに勝つにはフルタイム4WDが不可欠であることを決定づけたのです。

現在、Audiにはパワートレインのレイアウトやトランスミッションなどにより、5種類のquattroを用意しています。

最も伝統的なquattroが、エンジンをフロントに縦置きするモデルに搭載されるセルフロッキング・センターディファレンシャルを用いるタイプ。通常時には前40:後60にトルクを配分し、後輪駆動のような軽快なハンドリングとフルタイム4WDならではの優れた走行安定性を実現します。路面状況によっては、トルク配分を前70:後30〜前15:後85の間で変化させることで、優れたトラクションと回頭性を確保します。最新世代のモデルでは、ティプトロニックにはこのタイプのquattroが組み合わされます。

Audi S8

エンジンをフロントに縦置きするモデルのうち、Sトロニックに組み合わされるのが、「AWDクラッチ」と呼ばれる油圧多板クラッチによりトルクを配分するタイプ。前輪には常時駆動力を伝える一方、後輪へは必要に応じてAWDクラッチにより駆動力を伝えるというものです。負荷が低い状況では、AWDクラッチとリヤディファレンシャルに内蔵したクラッチをリリースすることで自動的にFFに切り替えて走行。これにより燃費向上を図っています。

すでに、Audi A7 SportbackやAudi A6、Audi Q5などに搭載されており、さらに、マイナーチェンジ後のAudi A4やAudi A5もこの方式が採用されています。

Audi A6

エンジンを横置きする比較的コンパクトなモデルでは、電子制御式油圧多板クラッチを使った4WDを採用。前輪には常時トルクを伝える一方、後輪にはリヤデフ直前に配置されたハルデックスカップリングの多板クラッチを制御することで配分するトルクを調節。通常時はフロントアクスルにほぼ100%のトルクを伝える一方、発進や加速など後輪の荷重が増える場面では即座にリヤのトルク配分を増やすことで素早い加速を実現しています。

Audi Q3

ミッドエンジンレイアウトのAudi R8では、電子制御油圧多板クラッチによりトルクを配分するquattroが採用されています。このシステムは、常時後輪を駆動する一方、必要に応じて電子制御油圧多板クラッチが前輪にトルクを伝達することで最大限のグリップを確保します。

Audi R8 Coupe

ピュアEVのAudi e-tronでは、前後モーターにより4WDを実現する電動quattroを採用。e-tronのSモデルには、フロントに1基、リヤに2基のモーターを採用。左右のリヤモーターは独立して制御することが可能で、コーナリング時には左右輪のトルクを変えることで旋回性能を向上させる“電動トルクベクタリング”機構を実現します。

Audi e-tron S Sportback

時代とともに進化を続けるAudiのquattro。その長い歴史と技術の蓄積が、Audiのダイナミックな走りを支えています。

Audi S5 Sportback

(Text by Satoshi Ubukata)