2020年の東京オートサロンで、RAYSは鍛造ホイールの新作「VOLK RACING GT090」を披露した。「TE037」「G025」に次ぐ“ZEROシリーズ”の第3弾となるこのホイールにこめた思いを、VOLK RACINGを手がける山口浩司氏に聞いた。
Audi RS 6 AvantやAudi RS 7 SportbackといったハイパフォーマンスモデルがターゲットというGT090。デザインの特徴は9本の細身のスポーク。そのルーツはFIA GT3マシーン用のレースホイールにあるという。
「マルチスポークのホイールをつくるうえでは、最適なスポークの数は10本なのか、12本なのかといった議論があります。さらに基礎研究のレベルでは13本や15本も試しています。スポークを多くし、スポークの挟角を狭くするとその部分に無駄な肉がつきやすくなる。反対にスポークを少なくすれば無駄な肉を取りやすいので軽量化できるのです。そこで、最適な構造を考えたときに浮かび上がったのが9本スポークでした」(山口氏。以下同)
ホイールを見てわかるように、9本スポークでは1本のスポークに対して中心の反対側に2本のスポークが対向している。これがカギだという。
「10本スポークの場合は、1本のスポークには反対側の1本が対向します。これに対して、9本スポークでは1本に2本が対向します。たとえば、路面からの力が1本のスポークに入ったときに、2本のスポークで支えることになるので、応力を分散できる。これは耐久性の点でも有利です。しかも、10本スポークに比べてスポークが1本少ないので、軽いし、駄肉もつきにくい形状になる。これが、FIA GT3マシーン用のレースホイールの開発で見えたわけです」
“レースホイールの開発で得られたこの理論をストリート用ホイールに生かしたい”、という思いから生まれたのがこのGT090だ。しかし、9本スポークというコンセプトこそ似ているが、ストリート用として世に送り出すにあたっては、ゼロから設計を見直したという。
「確かにGT3用のレースホイールを基本にしていますが、そのレプリカやオマージュではつまらない。ストリート向けにつくりこむため、9本スポークという点以外は根本から設計をし直しています。加えて、スポーク側面に“ウェイトレスホール”を設けて、さらなる軽量化を図っています。ウェイトレスホールは完成したホイールに穴をあけてつくれるものではなく、穴をあける前提で新たに設計する必要がありました」
TE037にも採用されるウェイトレスホールは、その加工に高度な技術とコストが求められる。
「これをギミック”という人もいますが、技術の奥深さをさりげなく採り入れることが、このホイールを手にするお客さまの喜びにつながると思うのです。レース用とストリート用のデザインのわずかな違いにも性能が息づいています。わかる人が見ると、『それは微差じゃない』というはずです」
山口氏はこのGT090をAudiのRSモデルになぞらえる。
「一見、普通ですが、実は計り知れない実力と、色を含めて特別感のあるモデルに仕上げています。この“ブライトニングメタルダーク”は、いかにもともとのアルミの輝きに近づけるかということをテーマに、5層に及ぶ塗装と焼き付けによって、超光輝調カラーを実現しました。また、前から見たときにはわからないけれど、走り抜ける姿がとんでもなくアグレッシブ……というRSモデルのように、このGT090も正面から見るのと、近くで見て触ってみたときの感じが違うはずです。そんな遊び心もRSモデルと似ていますね」
RAYSでは、今回採り上げた21インチを皮切りに、追って20インチも発売する予定だ。
「超辛口につくっているので、Audi RS 6 Avant / RS 7 Sportbackのオーナーに支持されると期待していますが、もちろん、SモデルやAモデルにも似合うと思います。お客さまからは19インチもつくってほしいという声が寄せられていますので、もし実現するときにはウェイトレスホールの数を見直そうと思っています」
“レースは技術の実験室”と位置づけるAudiと、レースホイールの理論をストリート用ホイールに注いだVOLK RACINGのGT090。先進技術で世界と戦う両者が一体となったとき、ハイパフォーマンスモデルの新しい走りが見えてくるに違いない。
(Text & Photos by Satoshi Ubukata)
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