細かいことは忘れましたが、6L、V12エンジンは500ps、1000Nmというわかりやすいスペックでした。「RS〜」というネーミングこそ使われていませんが、クワトロ社が開発した、いわゆるRS扱いのモデルだったはずです。それほど豊富な経験をもっているわけではありませんが、僕が乗ったディーゼルモデルのなかでは、群を抜いて力強いパフォーマンスを誇るクルマでした。
V12のディーゼルエンジン自体、市販車では非常に珍しい存在ですが、アウディはこの時すでにR10にディーゼルエンジンを積んでルマンを戦っていましたので、そのイメージを市販車に落とし込んだモデルとして、このQ7 V12 TDIはフラッグシップモデルの役割を担っていました。
本当に速いクルマでした。シロナガスクジラみたいなQ7に排気量6LのV12エンジンを搭載しているわけですから、いくら軽量化の得意なアウディといえども優に2トンは超えていたはずですが、空いた田舎道でアクセルを煽ったら、ミドシップとかリアエンジンのクルマのようにフロントがふわっと浮き気味になったのを覚えています。
静かで、快適で、速く、そして高価な、なんだかもう「楽しめるうちに楽しんじゃおうぜ!」という裏コンセプトでもあったんじゃないかと思える、デカダンな魅力を備えたクルマでした。さすがにアップデートされた欧州の排ガス規制をクリアさせられなかったのか、現在ではもう販売されていないようです。乗ることができて幸せだったなと思えるクルマでした。
さて、ここからが書きたかったことなんですが、先日、BMWがクリーンディーゼルのX5 xDrive35dブルーパフォーマンスを出し、迎え撃つメルセデス・ベンツML350ブルーテックと日本でガチンコ勝負を繰り広げること必至の状況になりました。名付けて「最大トルク55.1kgm対決」。
また国産車でもマツダがCX-5にスカイアクティブDというディーゼルエンジンを搭載したモデルを出しました(ちなみにCX-5、めちゃくちゃよくて、またどこかで報告したいと思ってます。もうベスト4気筒!)。
となると、アウディにも期待したいところです。少し前には日本のポスト新長期規制をクリアするディーゼルモデルを投入すると息巻いていましたが、こればっかりはいろいろと戦略があるうえ、投入しても商売として難しいのは事実ですから、やるかやらないか、検討が続いているのでしょう。少なくとも近々にはやらなそう。ハイブリッドが先でしょうか。
ともかく、日本におけるディーゼルエンジンの風向きが変わりつつあるのはみなさんも感じているとおり。日本のユーザーは距離を走らないので、なかなか経済的メリットを感じられないかもしれません。損得を考えるなら日本の道路状況ではハイブリッドのほうが得でしょう。
ただ、ディーゼルを、パフォーマンスを楽しむためと考えれば、同じような装備のガソリン版よりも高い価格を支払う価値は十分にあると思います。
にしても、嗚呼V12TDIよ、もう一度......。
(Text by Satoshi Shiomi)