多少なりともクルマに興味をもつ人なら、アウディを知らない人はまずいないでしょう。しかし、今のアウディは昔のアウディではありません。
いや別に「昔よりいいクルマをつくるようになった......」などといいたいわけではありません。ちょっと説明させてください。
アウディの一番の始まりは、元ダイムラー・ベンツにいたホルヒという人が1901年に創業した「ホルヒ」というメーカーです。「ホルヒ」のホルヒは創業者なんですが、コストに無頓着すぎるという理由で自らの会社を追われてしまいます。自分が始めた会社を追われる経営者というのは、Appleをはじめ、よくある話ですね。
そこで、ホルヒが今度は「アウディ」という会社をつくります。アウディという言葉は「聞く」という意味のラテン語。ホルヒは同じ意味のドイツ語です。これで「ホルヒ」と「アウディ」というふたつの会社が存在することになります。
その2社と「DKW」「ヴァンダラー」というまた別の2社が集まって、1932年に「アウトウニオン」という会社ができます。当時は世界恐慌直後で経済が混乱し、自動車産業界の再編期だったわけですね。現在のアウディも使う4つの輪がつながったエンブレムは、この会社が4社連合でできた会社だということを表現しているわけです。
第二次世界大戦を経て、1965年からアウトウニオンはまず車名として「アウディ」の名を使い始めます。ちなみに、その頃、アウトウニオンはダイムラー・ベンツ傘下にありました。ですから、ダイムラー・ベンツグループのアウディというクルマが存在したんです。
1969年、アウディはフォルクスワーゲングループの一員となり、その際に会社としてもアウディを名乗るようになります。複雑な展開なのでわかりにくい文章になってしまいましたが、要するに、はじめにホルヒ、そこから分かれた(元祖)アウディができ、その2社がDKW、ヴァンダラーという会社と合併してアウトウニオンができます。
その後、アウトウニオンはロータリーを世界で初めて乗用車用エンジンにとして実用化したNSUなどを吸収し、一時期ダイムラー・ベンツに吸収され、その数年後にVWグループの一員となるのを機に社名をアウディに変更し、現在にいたるということです。
「今のアウディは昔のアウディではない」というのはそういう意味です。
(Text by Satoshi Shiomi)