ホール内にはクルマが走行できるコースが設けられ、試乗車(同乗試乗だが)がビュンビュンと走り続けている。きっと日本ならノロノロ走るところだろうが、そこはアウディ、ちょぴりスリルを感じるスピードで飛ばしてくれるのがいい。
よく見るとブルーのQ3やA8には、ボディサイドに「connect」の文字が描かれている。実はこの試乗車たちは、今後アウディが力を入れるテーマを示すものだった。すなわち、「e-tron」「Audi connect」、そして、「Audi Ultra」である。
e-tronは、アウディが2012年に販売を予定している電気自動車だ。環境問題を考えると、自動車のパワートレインにモーターを組み込むことは必須であり、すでにアウディは、Q7のハイブリッドを販売しているし、Q5、A8、A6とそのレンジを徐々に広めつつある。パワートレインの電動化、すなわち、「e-mobility」はすでに始まっているのだ。もちろん、ハイブリッドと並行して、あるいは場所によってはガソリンやハイブリッドの先の手段として、電気自動車が控えているのはいうまでもない。この電気自動車をアウディではe-tronと呼ぶ。アウディの先進性を表すキーワードとしてすでに「TDI」や「TFSI」、そして、「quattro」がすっかり定着しているように、アウディはこのe-tronもそのような存在にしたいと考えている。
Audi connectは、走行中のクルマ(そして乗員)をモバイルネットワークによって外界とつなごうというものだ。すでにヨーロッパ仕様のモデルでは、カーナビの地図がわりに「グーグルマップ」を表示させることができるし、また車内が"ホットスポット"となり、乗員が無線LANを使ってインターネットにアクセスすることができる。
ネットワークとつながることで、交通情報がリアルタイムで入手できるのはイメージしやすい。また、e-tronなら、離れた場所で充電していたとしても、その様子が手元のスマートフォンでわかるようになる。
アウディはさらに一歩進めて、クルマとクルマのコミュニケーション、そして、クルマと信号機などの交通インフラとのコミュニケーションの実用化をめざして、実験をスタートしている。こうしたコミュニケーションにより、クルマの流れがスムーズになれば、交通事故が減らせるだけでなく、燃料消費の削減やCO2の低減にもつながるからだ。さらにその先には、自動運転というテーマがあるわけだが、とにかく自動車が抱えるさまざまな問題を解決するにはクルマと外界とのネットワークづくりは不可欠。その準備を着々と進めていくというのがAudi connectなのである。
R8 GTスパイダーやTT RSが、e-tronや"Audi connectカラー"の車両に混じってコースを飛ばしていたのは、Audi ultraをアピールする意味があったに違いない。
「アウディの三種の神器」を備えているという意味でも
もちろん、このアウディ アーバンコンセプトも電気で動く「e-tron」だ。EVであっても、スポーティなスタイルや精緻なつくりはさすがアウディ。乗り味もきっとアウディらしいに違いない。
圧縮天然ガスを燃料とすること自体は別に珍しくはないが、注目したいのが燃料の供給方法だ。再生可能なエネルギーの利用が世界的に注目を浴びているのはいうまでもないが、風力発電や太陽光発電など、供給に変動があったり、需給バランスに臨機応変に対応できないという問題があるのも事実。そこには、電気を有効に貯蔵する手段がないという根本的な問題もあるわけで、そこでアウディはエネルギー供給企業と組んで、この"グリーンエネルギー"を有効利用する「eガスプロジェクト」を立ち上げたのだ。
グリーンエネルギーの余剰分は、水の電気分解により水素を生成。水素を燃料電池車で直接利用するという手もあるが、燃料電池車の普及にはまだまだ時間がかかる。そこで、この水素から、天然ガスの成分のひとつであるメタンを合成する。このメタンをアウディは「eガス」と呼び、エネルギー源として貯蔵。eガスはTCNGエンジン車の燃料として使えるだけでなく、家庭用の燃料や発電用としても利用できる。
グリーンエネルギーから水素を生成し、さらにメタンに変換してクルマのエネルギー源に使うとなると、直接電気自動車に充電して使う場合に比べて、トータル効率は大きく劣るだろう。しかし、電気のままでは貯蔵しにくいという問題を解決するという視点からは、十分意味のある取り組みだ。そもそも、効率を問題にするのは資源に限りがある化石エネルギーを用いるからであって、グリーンエネルギーを用いる場合には、はじめから効率ばかりにこだわる必要はないのだ。
(Text by Satoshi Ubukata)