アウディが手がける電気自動車「e-tron」を日本の路上で体験する「Audi e-tron driving experience」が、TOYO TIRESターンパイクで開催された。

(写真:菊池貴之)
東京モーターショー(以下TMS)の開催まで2週間を切った2011年11月中旬、TMSで日本初公開となる「アウディA1 e-tron」がTOYO TIRESターンパイクに持ち込まれ、プレス関係者に試乗の機会が与えられた。

e-tronは、アウディが手がける電気自動車のことで、アウディはバッテリーのエネルギーだけで走るピュアEVに加えて、プラグインハイブリッドやレンジエクステンダー付EV、燃料電池自動車をe-tronと呼んでいる。

今回、「Audi e-tron driving experience」のためにアウディは、2台のA1 e-tronのほかに、2台のA3 e-tronを準備。日本のメディアに加えて、韓国やオーストラリアのメディアにも試乗の機会を用意している。


A1 e-tron、A3 e-tronはいずれも現在開発中の車両で、ドイツ仕様がそのまま持ち込まれている。当然、日本の道路は走ることができない......。というわけで、TOYO TIRESターンパイクを閉鎖して試乗に対応するという、なんとも驚きの状況下でイベントが開催された。
試乗車の台数が限られていることと、簡単に充電できない電気自動車ということで、試乗時間はほんのわずかだったが、それでも、e-tronのキャラクターを知ることができた。

最初に試乗したのはA1 e-tron。このクルマの特徴は、電気自動車としてはバッテリーの容量が少ない代わりに、"レンジエクステンダー"によって航続距離を伸ばしていることだ。航続距離(レンジ)を拡大する(エクステンド)装置は、ガソリンエンジンと発電機を組み合わせたもの。A1 e-tronの場合、近距離移動なら電気エネルギーだけで済ませることができる。一方、ある程度の距離を走る場合にはエンジンで発電した電気を利用する。だから、バッテリー切れの心配がない。バッテリー使用時の航続距離は約50kmで、近距離移動には十分な距離。さらにレンジエクステンダーを利用すればプラス200km、トータル250km程度の走行が可能になる。


上がA1 e-tronの透視図で、フロントに駆動用モーター、後席の床下にリチウムイオンバッテリー、そして荷室下にレンジエクステンダーが配置されているのがわかる。

モーターの性能は、最高出力が102ps、最大トルクが24.5kgm。1.4 TFSIに比べるとパワーでは劣るが、トルクは4.1kgmも充実している。バッテリーの容量は12kWhだ。
荷室のフロアボードを開けると中央に蓋が見える。この下に254ccの1気筒エンジンが収められている。実はこのエンジン、いわゆるレシプロエンジンではなく、ロータリーエンジンなのだ。サイズがコンパクトであることと、振動が少ないこと、一定回転で回す場合は効率が優れることなど、ロータリーのメリットは多い。しかも、アウディとロータリーには深い縁がある。アウディに吸収されたNSUが、ロータリーエンジン車を販売した実績があるというのは、ご存じの方も多いだろう。


A1 e-tronのインテリアはこんな感じ。メーターは専用にデザインされており、回転計の代わりにパワーメーターが、水温計の代わりにバッテリーの残量計が配置されている。
 

シフトパターンも少し違う。Dレンジの下にロータリーエンジンのイラストがある。ここにシフトレバーを動かすと、レンジエクステンダーを積極的に作動させることができるのだ。
同乗のインストラクターから簡単なコックピットドリルを受け、さっそくスタート。発進の瞬間こそマイルドに躾けられているが、このモーター、なかなか力がある。タイヤが転がり出したくらいからグゥっと勢いづき、明らかに1.4 TFSIを上回る加速が味わえるのだ。ターンパイクの登り勾配でも、100km/hくらいまでは勢いが持続。平坦な道ならさらに加速は続くだろうし、街中なら十分素早い加速が楽しめそうだ。アクセルペダルの動きにダイレクトに反応するのもEVならではの感覚だ。

シフトレバーを操作してレンジエクステンダーを動かすと、ブーンという音が聞こえてきた。とはいっても、ロータリーエンジンのノイズはさほど大きくなく、ドライバーには気にならないレベルだ。一方、後席のインストラクターに尋ねると、お尻から振動が伝わってくるそうだが、試乗車はまだ実験車のレベルであり、もし商品化する場合にはさらにきっちりと遮音対策がなされるはずだから、とくに心配する必要はないだろう。


感心したのはA1 e-tronの走りっぷり。バッテリーを積んで重量が増しているA1 e-tronは、サスペンションもそれなりに強化されているはずなのだが、愛車のA1 1.4TFSIに比べるとむしろ乗り心地は快適で、サスペンションの動きもしなやか。とても洗練されている。そのうえ、バッテリーをリアアクスル手前に搭載したおかげで前後重量配分が適正化され、低重心化が図られたA1 e-tronは、よりスポーティなハンドリングの持ち主に生まれ変わっていたのだ。予想をはるかに上回る仕上がりに、正直驚いてしまった。

そうこうしているうちにA1 e-tronの試乗時間が終わり、休む間もなく、A3 e-tronに乗り換える。A3 e-tronはバッテリーの電気だけで動くピュアEVで、A1 e-tronよりもはるかに容量の大きな、26.5hWhのリチウムイオンバッテリーを搭載している。航続距離は約140kmだ。


モーターは、最高出力136ps、最大トルク27.6kgmの実力。モーターとバッテリーは水冷式で、常に最適な温度に保たれるという。


A1 e-tronと違って、とくに演出のないA3 e-tronの室内は、メーターを見なければ電気自動車とは気づかないほど素っ気ない。
 

しかし、その走りはA1 e-tronをさらに上回るスポーティなものだった。高性能モーターと大容量バッテリーが、1.5トンを超えるボディをグイグイ加速させるのだ。0-100km/h加速のデータを見ると、A1 e-tronが10.2秒であるのに対し、このA3 e-tronは11.2秒となっていたが、感覚的にはこのA3のほうが速く思えた。

乗り心地やハンドリングもA1 e-tronよりも一枚上手。上質な乗り心地を備えるとともに、低重心と前後重量バランスの良さが、実に素直なハンドリングをもたらしているのだ。


パワートレインの電動化にともない、クルマそのものがますます家電化、均一化するように思われているが、今回試乗した2台のe-tronには、アウディの個性が凝縮されていた。エンジン車でも、e-tronでもアウディであることに変わりはないし、伝統の味が受け継がれている......というか、ますます味が濃くなっている印象だ。

EVの時代が来ても、アウディを選ぶ理由はなくならない......。そんな確信が得られたのは、僕にとって大きな収穫だった。日本の道をアウディのe-tronが走り始める日が、いまから待ち遠しい!

(Text by Satoshi Ubukata)