コンディションが整ったアウディTTクワトロスポーツを、モータージャーナリストの新井 勉さんに試乗していただきました。
果たしてその印象は?
「TTクーペは、ベースとなった"A3 1.8T"にトウガラシをたっぷりと擦り込んだようなホットモデルである」
まずはデザイン。ドイツの美術と建築に関する学校"バウハウス(Bauhaus)"の思想を感じさせることから「走るバウハウス」などとも形容される「TT」だが、個人的にはそのきわめてシンプル、かつ機能的なデザインが好きだ。イタリア車の大人の色香を感じさせる優美さとは実に対照的、いかにも質実剛健を旨とするゲルマン民族らしい造形である。
さて、今回試乗した「TTクワトロスポーツ」は、クワトロ誕生25周年を記念してつくられた特別仕様車である。日本での販売台数はわずか150台。もちろん、ほかの「TT」とは違う、いくつかの特徴を備えている。
ドアを開けると、アルカンターラの3本ステアリングホイールとハンドブレーキグリップ、アルミ製シフトノブが目を惹く。
もっとも、内外装のそうした特別装備は、実はこのクルマにとっては飾りの一部でしかない。肝心なのは軽量化のためにリアシートを取り払い、前後重量配分の改善を狙ってバッテリーをエンジンルームからトランクスペースに移設したこと。
横置きに搭載される直列4気筒20バルブユニット、BFV型1.8Lインタークーラー付きターボエンジンは、ECUのマップを書き換えることで標準仕様(APX型)に対して11kW(15ps)増しの176kW(240ps)/5700rpmの最高出力を発揮。最大トルクは40Nm増えて320Nm(32.6mkg)/2300〜5000rpmを生み出す。
実際、走らせてもフラットトルク型の特性を示すが、いわゆるターボラグを感じさせるなど古典的な味わいも残されていて、最新の"超フラットトルクターボ"に慣れた身には、やはりここでも「懐かしい」の文字が浮かんでしまった。
操縦性は初期のクワトロに共通の弱アンダーステアに終始する。周知のとおり「TT」のクワトロ・システムは電子式油圧制御のトルク配分システム(いわゆる油圧制御多板クラッチ)を採用するため、通常はほとんど後輪へトルクを伝達していない。
ところで、試乗車は新品のミシュラン・パイロット スポーツ3、235/40ZR18 95Wを履いていたが、この、プレミアム・スポーツの基準ともいえる性能を備えたタイヤの特性も「TT」にとてもマッチしていた。
若干パターンノイズが大きいように感じたことを除けば、ドライ/ウェット・グリップ、ユニフォーミティ、乗り心地などすべてのバランスが良く、特にウェット路面では滑り出しのわかりやすさが印象的だった。
(Text by Tsutomu Arai / Photos by Hiroyuki Ohshima)
「TTクーペは、ベースとなった"A3 1.8T"にトウガラシをたっぷりと擦り込んだようなホットモデルである」
1998年9月上旬、ヨーロッパでの販売を翌月に控えた「TTクーペ」のイタリア試乗会にて、筆者はノートにそう記している。 あれから15年、その初代TTの限定車、2006年モデルの「TTクワトロスポーツ」を走らせたときの試乗メモには、"なつかしい"という言葉があちこちに散らばっていた。
まずはデザイン。ドイツの美術と建築に関する学校"バウハウス(Bauhaus)"の思想を感じさせることから「走るバウハウス」などとも形容される「TT」だが、個人的にはそのきわめてシンプル、かつ機能的なデザインが好きだ。イタリア車の大人の色香を感じさせる優美さとは実に対照的、いかにも質実剛健を旨とするゲルマン民族らしい造形である。
「Simple is best」とは上手いことをいうもので、単純な線の組み合わせなのに、そのデザインはなんとも印象的だ。どこか懐かしささえ感じてしまうから不思議でもある。
実際、久しぶりに対面したTTクーペをじっくりと眺めているうちに、イタリアでの試乗会を想い出したわけで、15年の時を経てもまったく旧さを感じさせないエクステリア・デザインは、見事のというほかない。
さて、今回試乗した「TTクワトロスポーツ」は、クワトロ誕生25周年を記念してつくられた特別仕様車である。日本での販売台数はわずか150台。もちろん、ほかの「TT」とは違う、いくつかの特徴を備えている。
外観では、ルーフとドアミラー、リアスポイラーが専用カラーのファントム・ブラック・パールエフェクトに塗られていることが"特別の証"で、これにレッド・ペイントされたブレーキ・キャリパーを組み合わせているのが見た目の特徴だ。
もっとも、内外装のそうした特別装備は、実はこのクルマにとっては飾りの一部でしかない。肝心なのは軽量化のためにリアシートを取り払い、前後重量配分の改善を狙ってバッテリーをエンジンルームからトランクスペースに移設したこと。
そして、クワトロGmbH特製のスポーツサスペンションを与え、さらにパワー・ウェイト・レシオを向上させるべく、エンジン出力を上げたことにある。
実際、走らせてもフラットトルク型の特性を示すが、いわゆるターボラグを感じさせるなど古典的な味わいも残されていて、最新の"超フラットトルクターボ"に慣れた身には、やはりここでも「懐かしい」の文字が浮かんでしまった。
たとえば、日常域で多用する2500〜3000rpmの範囲でも充分な力強さを備えており不満を感じることはない。だが、このエンジンが実力を発揮するのは4000〜5000rpmの間だ。具体的には3000rpmでトルクの盛り上がりを感じさせ、4000rpmでトルクに乗り、5000rpmを超えるとトルクが低下していくのが手に取るようにわかる。実に素直というか解かりやすい出力特性である。
そして、この特性を理解すると、DSGではなく6段MTを組み合わせた理由が見えてくる。そう、わずか1000rpmのパワーバンドを外さないように"マニュアル・シフト"することが愉しいのだ。パドルを引くという単純な行為ではなく、クラッチを踏みシフトレバーを操るという一連のリズミカルな動作に快感を覚えるのだろう。
アウディの開発陣は「速さよりも操る実感」を大切にしたわけで、アルカンターラのステアリングホイールの握り心地の良さと、そこに伝わる素直なステアリング特性もそれに一役買っている。
操縦性は初期のクワトロに共通の弱アンダーステアに終始する。周知のとおり「TT」のクワトロ・システムは電子式油圧制御のトルク配分システム(いわゆる油圧制御多板クラッチ)を採用するため、通常はほとんど後輪へトルクを伝達していない。
したがってハンドリングも限りなくFFに近いのだが、リアサスペンションにマルチリンク式を用いるクワトロは、トレーリングアーム式のFFモデルと比べるとそもそもリアのグリップ限界が高く、アンダーステアの傾向が出やすいというわけだ。
若干パターンノイズが大きいように感じたことを除けば、ドライ/ウェット・グリップ、ユニフォーミティ、乗り心地などすべてのバランスが良く、特にウェット路面では滑り出しのわかりやすさが印象的だった。
このアウディTT クワトロスポーツは、普通の「TT」に比べてグラントゥーリズモとしての性格が強いモデルだが、相性の良いタイヤと組み合わせたことで、本来の性能がより鮮明に現われていたように思う。
(Text by Tsutomu Arai / Photos by Hiroyuki Ohshima)