いっぽうプロダクションモデルで一番のトピックは、Audi RS 5 Coupeあった。
いずれも車両については別ページの解説に詳しいので、そちらをご覧いただこう。
参考までにAudi RS 5 Coupeのプレゼンテーション中に披露されたショートムービーがイカしていた。
ストーリーの舞台は、スリラー映画のロケ現場。主人公の俳優はスランプに陥っているようで、監督からはダメ出しの連続だ。
ところが休憩時間にスタントマンと交わした会話でちょっぴり勇気を得た彼は、スタントマンの代わりに自らAudi RS 5 Coupeを操縦してドライビングシーンを敢行。Audi RS 5 Coupeの溢れる加速力を借りて豹変する。撮影後その鮮やかな走りに、監督から見直されるというものだ。
それを観て、ホウレンソウをかっ込んだポパイを思いだしたのは、筆者だけだろうか。
ステージでは2017年シーズン用のAudi RS 5 DTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)マシーンもスポットを浴びた。
Audi RS 5としては3代目となるこの車両は、Audi史上初めてプロダクションモデルと並行開発されたものである。4L V8エンジンの出力は500psを超える。
前ランボルギーニCEOで現在Audi SportのCEOを務めるシュテファン・ヴィンケルマンが解説するに、2016年にAudi Sportが手がけた車両は、世界のレースで24の選手権タイトルと85回の優勝を記録。表彰台入りは100回以上に上ったという。
AudiはAudi RS 3 Sportbackも同時に発表した。2016年パリサロンのセダン版に続くもので、量産車として世界一パワフルな5気筒エンジンである2.5TFSI 400PSを搭載。0-100km/h加速は4.1秒を誇る。
ここまで記すと、一見ハイパワー攻勢のみに思えるが、それだけではなかった。
Audi A5 Sportback g-tronは、すでにAudi A3 SportbackやA4 Avantに設定されているものと同様、ガソリンと天然ガス(CNG)の併用車である。双方の燃料を用いた航続距離は950kmだ。ガソリン/CNG双方のタンクをもつ"バイフューエル"車両は、イタリアなど欧州の一部の国で長年地道な支持を得てきた。近年ではガソリン価格の高騰や、エコロジーを推進する政府や自治体のCNG奨励を背景に、さらに普及が加速している。
ただし、そうした車の大半はエコ志向の小型車だった。ゆえにスタイリッシュなデザインをもつプレミアムカーのAudi A5 Sportback g-tronがどのようなマーケットを開拓できるか興味深い。
CNGに関してAudiはもうひとつ、g-tronユーザーが、いわば自動参加することになる環境保護プログラムを発表した。
プレゼンテーションのステージのスクリーンは、ドイツの街ヴェルルテとライブで繋がった。
2013年、自動車メーカーがみずから手がける初の再生可能エネルギープラントとして話題になったAudiの人工ガス工場である。
工場では風力発電などによってできた余剰電力を活用して、水を酸素と水素に電気分解する。
そのうちの水素をCO2に反応させることで、人工メタンガスであるAudi e-gasを生成している。
Audi g-tronのユーザーは、どのようにしてプログラムに"参画"するのか。その仕組みが少々複雑だが面白い。
g-tronのユーザーに何の上乗せ料金も発生しなければ、会員カードのようなものも与えられない。また、どの国のどのCNGステーションでガスを充填しても、追加料金は発生しない。つまり他ブランドのCNG仕様車ユーザーとまったく同じだ。
いっぽう、Audiは個々のg-tron車から得られる車両データをもとに、エンジン燃焼時に発生したCO2排出量を計算。同量のCO2を前述のAudi e-gas生成時に使用する。作ったAudi e-gasは欧州のガス網に供給する。
この相殺によって、g-tronのユーザーは、CO2排出量を同出力・同性能の車と比べて80%削減することができるという計算だ。
手始めとして、g-tronを2018年5月末までに発注したユーザーは、3年間にわたりAudi g-gasプログラムに自動的に参加することになる。
近年ゴージャスなリミテッド・エディションにスポットライトを浴びやすいジュネーブだが、こうした環境志向も真面目に押さえるところは、Audiならではだった。
そのようなことを考えながら、帰り道夕食を調達に、ジュネーブ市街のスーパーマーケットに立ち寄った。この街の物価は欧州のなかでもかなり高い部類で、毎回ショー取材のたび泣けてくる。
仕方がないので、おかずの足しにポテトチップを購入した。Infeno(地獄)と名付けられた激辛である。
ふと見ると、袋の外にステッカーが貼ってある。特賞はAudi Q2だ。当たるのはたった1台だが、よく読むと当選者には副賞として「チップス満載」で届けられるらしい。
昼間の環境保護プログラムを理解するのに頭を使いすぎて朦朧となっていた筆者は、「ポテトチップスも燃料になるのか」と不可解な想像をしてしまったのであった。
(report by Akio Lorenzo OYA / photos by Mari OYA, Akio Lorenzo OYA, Audi)