Audiは2017年4月21〜28日に一般公開された第17回上海モーターショーに、現地合弁会社であるFAW(中国一汽)-VWオートモーティヴ社とともに出展した。 それに先立つプレスデイに行われたブリーフィングで最初に紹介されたのは、中国プレミアとなる新型「Audi A3」であった。


現地のカテゴリーでいうところのプレミアムAクラスに属するAudi A3は、中国南部のAudi第2工場で生産される初のモデルとなる。


また会場では、Audi Sportのシュテファン・ヴィンケルマンCEOによって、アジアで開催されているワンメイクレース用マシーンである「Audi R8 LMSカップ」の2017年バージョンをワールドプレミア。


さらに中国プレミアとして「Audi RS 3 LMS」、アジアプレミアとして「Audi RS 5 Coupe」も紹介された。

いっぽう今回の主役は、「Audi e-tron Sportback concept」であった。解説は本サイトの別ページに譲るが、Audiのセールス&マーケティング担当取締役のDr.ディートマー・フォッゲンライター氏は、Audiの近未来のEV戦略について明かした。


それによると、2019年にこのAudi e-tron Sportback conceptの生産型を2019年に発売。翌2020年にはAudi e-tron、e-tron Sportbackに注ぐ第3のEVモデルとして、プレミアムコンパクトのEVを投入。続く2021年にはAudiのモデルラインすべてにEV仕様を設定する。また、中国では一汽の工場でEV版Audiの現地生産を行う予定である。


さっそくAudi e-tron Sportback conceptの実車を見学する。

自慢のデジタルマトリクスLEDプロジェクターと並ぶ、照明入りフォーシルバーリングスは、「もっと早く実現すればよかったのに」と思うほどクールである。


近くにいたスタッフと思しき人物に「光る4輪マーク、スタイリッシュですね」と感想を述べると、彼は即座に、いいこと言ってくれますねといった表情を浮かべた。

聞けばその紳士、シーザー・ムンターダ氏は、インゴルシュタットのAudiデザインにおけるライト&ホイール・デザイン責任者だった。


そうした灯火類は、ほぼホモロゲーションが可能という。たとえコンセプトカーであっても現実をきちんと見据えているところがAudiらしい。


いっぽうでライトまわりということでいえば、AudiもEVになり、いよいよラジエターグリルが消滅することになる。

内燃機関のクルマで小さなグリル開口部で十分冷却できても、グリルを取り払うと「風格が足りない」といった声がユーザーから上がり、マイナーチェンジ時に立派な「なんちゃってグリル」を慌てて付加した他社製モデルが数々あった。

Audiデザインに、グリルを失う恐れはないのか?

そんな質問に対してムンターダ氏は、「再定義はしているものの、従来のAudiのシングルフレーム・グリルのアイデンティティを着実に継承している」と述べ、その心配は及ばないという見解を示した。


そして「AudiはEVになってもセクシーであり続けます」と結んでくれた。


デジタルマトリックスLEDプロジェクターに話を戻せば、2016年1月のラスベガスCESショーにおいてデモンストレートしたアニメーション投影をはじめとする技術が、いよいよ現実になるだろう。

「技術による先進」はAudiのモットーだが、こうしたパーツひとつとっても、確実に前に進んでいることを実感した今回の上海であった。

その昔、日本に輸入車が極めて少数派だった時代、同じモデル同士で出会うとホーンやライトで"挨拶"する習慣があったと聞く。筆者が子供の頃、VWビートルに乗っていた父も、郊外の道で他のビートルに出くわすと、思わず手を上げて車内から挨拶していたものだ。

そのうち、Audiが出会うと自動的に反応して、ライトでウィンクができる前照灯サインなどあったら面白いのではないか?と想像をたくましくする筆者であった。


(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)