2代目となったAudi R8 Spyderをモータージャーナリストの大谷達也氏がスペインで試乗。そのボディ剛性の高さに舌を巻いた。 比較的負荷の軽いライトウェイトスポーツカーならまだしも、オープンのスーパースポーツカーでコーナリングを徹底的に楽しめたことがこれまでに何度あっただろうか。

たいていの場合、乗り始めた直後にはボディ剛性が高いと感じられても、ワインディングロードを攻めるにつれて弱点があらわになり、結局はタイヤの限界にいたらないうちに「まあ、これだったらオープンスポーツカーにしてはよくできているほうだよな」なんて自分を納得させることになる。

いくら技術が進歩し、軽量・高剛性な素材が登場しても、モノコックにカーボンコンポジットを全面的に採用しない限り、真剣にドライビングに向き合えるオープン・スーパースポーツカーなんか作れるはずがない。私はここ何年もルーフが開くスポーツカーに乗るたびにそう思ってきた。

しかし、2代目に生まれ変わったAudi R8 Spyderは、私のそんな思い込みを一新させるのに充分なポテンシャルを備えていた。


スペイン・バルセロナで行われた国際試乗会で、私は新しいAudi R8 Spyderを1日半にわたって存分に走らせる機会に恵まれた。

そのなかには交通量のきわめて少ないハイウェイや高速ベンドから低速コーナーまでがリズミカルに続くワインディングロードも含まれていたのだが、そのダイナミックな走りを楽しむうえでボディ剛性が不足していると感じたことは一度もなかった。

それどころか、クーペ版の新型Audi R8同様、先代をはるかにしのぐシャープなハンドリングと確かなスタビリティ、そしてスーパースポーツカーの快適性に関する基準を大きく塗り替える良好な乗り心地などを、2代目Audi R8 Spyderは実現していたのである。

なぜ、そんなことが可能になったのか?


1to8.net読者にはいまさら説明する必要もないだろうが、新型Audi R8にはアルミ・スペースフレームとカーボンコンポジット構造を組み合わせた最新世代のASFが採用されている。

今回の試乗会場にはスパイダー版のカットモデルが置かれていたのだが、「コックピット周りのアルミパネルにちょちょっとカーボンが貼り付けてある程度」という私の勝手な推測とはまるで異なる、実に立派で頑丈そうなカーボンコンポジット製セルがモノコックの中心部に鎮座していたのである。

その周辺にはたしかにアルミ製スペースフレームが伸びているが、私の想像とは正反対で、主役はカーボンコンポジット製セルで、アルミ製スペースフレームはあくまでも脇役に過ぎなかったのだ。これだったらオープンにしても高いボディ剛性を維持できたことは容易に推測できる。


それでも折り畳んだソフトトップの骨組みを収納するためにシート後方のリヤバルクヘッド部分に深い切れ込みが入っており、この影響でカーボンコンポジットがボディ全体に占める割合はクーペの14%から12%に減少。これにともなってボディ剛性も若干の低下を見たという。

もちろん、ルーフ自体を取り去ったこともボディ剛性になんらかの影響を与えたのは明らか。こうしたオープン化に伴う弊害を最小限に留めるため、サイドシルを構成するアルミ製部材の肉厚を増すなどしてボディを補強。さすがに新型Audi R8 Coupeには及ばないまでも、先代Audi R8 Coupeに匹敵する捻り剛性を確保したというから驚くしかない。


おかげで、高速道路の目地段差を乗り越えても安っぽい振動は残らず、高速ベンドを通過中に大きな段差を乗り越えてもボディが歪んだ気配は微塵も感じ取ることができない。ただただAudi R8に全幅の信頼を寄せてコーナリングに没頭するだけ。そんな走りを、私はバルセロナで満喫してきた。

ちなみに新型Audi R8 Spyderのパワーユニットはいまのところ最高出力540psの自然吸気V10 5.2Lエンジンのみ。同じV10はクーペにも搭載されているが、ご存じのとおりクーペにはその上に最高出力610psのV10 plusが用意されている。つまり新型ではクーペの下位バージョンがスパイダーに採用されているわけで、これはクーペにV8とV10を揃えていた先代Audi R8がスパイダーにはV10モデルしかラインナップしていなかったこととは対照的な関係といえる。

もっとも、いうまでもなく最高出力540psでも新型Audi R8 Spyderの動力性能にはまったく不満を抱かなかった。むしろトップエンドでの、あの凶暴とさえいいたくなる鋭い吹き上がりのV10ユニットが持つポテンシャルを公道で引き出すのはあまりにもリスキーで、あとはサーキットで試す以外に方法はないと思えたほどだった。


それにしても新型Audi R8のシャシーは、スーパースポーツカーだけが足を踏み入れられる過激なまでのコーナリング性能と、どれほど攻めても決して破綻することのないスタビリティを両立しているという点において、他に並ぶものがない。

たとえば、新型Audi R8の兄弟モデルというべきランボルギーニ・ウラカンもかなり近いキャラクターを得ているが、ウラカンがかなり早い段階からオーバーステア傾向を示すのに対し、Audi R8は滅多なことではリアが滑り出すことはない。それでいながら、刺激性の点でウラカンに決して引けをとらないのは、レスポンスが驚くほど鋭く、人の感性に強く訴えかけるシャープな吹き上がりのV10ユニットのせいか。それとも、タイヤと路面の関係を余すところなくビビッドに伝えてくるステアリング・インフォメーションのおかげか。

おそらくは、それらが渾然一体となって、Audiらしい安心感とスーパースポーツカーならではの官能性を実現できたのだろう。


かつてなかったほど洗練されたスーパースポーツカーとして誕生した初代Audi R8。その美点を余すことなく受け継ぎながら、ドライバーの心を激しく揺さぶるスポーツ性も手に入れた新型Audi R8は、今後Audiが放つニューモデルの方向性を示しているように思えて実に興味深い。

(Text by Tatsuya Otani)