RS 3としては初のセダンとなる「Audi RS 3 Sedan」をチェック。スポーツサルーンとしての性能は期待どおりか? Audi A3シリーズのPI(=マイナーチェンジ)を機に、Audi RS 3史上初めてセダンボディの「Audi RS 3 Sedan」が設定された。現在、Audi Sport GmbH(Audi Sport社)が手がけるRSモデル唯一のセダンである。

コンパクトなAudi A3シリーズのボディにパワフルな2.5L直列5気筒直噴ターボの2.5 TFSIエンジンを搭載し、お家芸のquattroにより高いトラクション性能を発揮する......というのがAudi RS 3 Sportbackの特徴。それはこのSedanにも受け継がれており、
Audi Sportが門外不出とする2.5 TFSIは、最高出力294kW(400ps)/5850〜7000rpm、最大トルク480Nm(48.9kgm)/1700〜5850rpmの実力で、これに湿式多板クラッチタイプの7速Sトロニックが組み合わされる。エンジンを横置きするAudi RS 3には、電子制御油圧多板クラッチを用いたquattroが採用される。フロントアクスルには常時駆動力を伝える一方、リヤアクスルに伝える駆動力は、必要に応じて電子制御油圧多板クラッチが調整するというものだ。


さて、試乗車は、オプションの「RSデザインパッケージ RSスポーツシート」が装着された仕様で、レッドのダイヤモンドステッチが施されたファインナッパレザースポーツシートがコックピットを豪華かつスポーティに彩っている。さらに、エアコン吹き出し口のレッドアクセントやニーパッドに施されたレッドステッチなど、RSモデルの特別な雰囲気を楽しむにはうれしい演出だ。


ステアリングホイールは、レザー/アルカンターラのフラットボトムタイプで、従来とはレザーとアルカンターラの位置が逆転しており、ふだん握る部分にアルカンターラが配されるデザインになった。フルデジタルメーターのバーチャルコックピットは標準で装着され、RSモデル専用のデザインを採用するのも、見逃せない点だ。


......と、前置きはこのくらいにして、いざ試乗開始。エンジンのスタートボタンを押すと、「ブウォーン、パン、パン」と威勢よくエンジンが目覚める。静かな住宅地では気後れするほどだ。

さっそく動き出すと、オプションのマグネティックライドを手に入れたAudi RS 3 Sedanは、硬めの乗り心地を示しながらも、ガツンとショックを伝えてくることはなく、街乗りでも十分使える快適さを確保している。RSモデルであっても、乗り心地には過激さはない。

エンジンも、排気音こそやや大きめだが、低回転域では荒々しさはない。2.5Lという余裕ある排気量のおかげで、軽くアクセルペダルに右足を載せただけで余裕ある加速が得られるから、落ち着いて運転ができる。5気筒らしいエンジン音も抑えられており、ちょっと拍子抜けしてしまう。


もちろんそれはAudi RS 3 Sedanの一面にすぎず、アクセルペダルを強く踏み込みと性格は豹変する。以前にも増してレスポンスが向上した2.5 TFSIエンジンは、3000rpm手前あたりからフウォーンという5気筒独特のエンジン音を奏でながら、一気に回転を上げ、鋭い加速を見せつけるのだ。そんな状況下でも、安心してステアリングを握っていられるのは、quattroがもたらす絶大なトラクションのおかげで、400psものパワーをいとも簡単に手中に収められるのは、Audi RS 3 Sedanの醍醐味だ。

感心したのはそのハンドリング。重さでは不利な2.5 TFSIを積むにもかかわらず、コーナーでの動きは実に軽快で、ノーズヘビーな印象がないのだ。タイヤの接地感が高く、ストローク感がしっかり残されたサスペンションのおかげで、ワインディングロードを安心してとばすことができる。


キックダウンの際に少し加速が途切れるのが気になったが、不満といえばそれくらい。Bang & Olfsenサウンドシステムのクリアな音を楽しみながらのんびり走るのも、5気筒のサウンドを高鳴らせながらワインディングロードを駆け抜けるのも、ともに得意なAudi RS 3 Sedanは、コンパクトなスポーツサルーンの理想像といっても過言ではないだろう。

(Text & Photos by Satoshi Ubukata)