最小のSモデル「Audi S1」がついに日本上陸。さっそく箱根の試乗会でその走りを確かめた。

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すでに
クルマの概要は
ダッシュボードに鈍く光る「quattro」のバッジも誇らしげだ。標準モデルに設定のないquattroが唯一搭載されるのがこのAudi S1だからだ。それにしてもquattroがAudi S1のキャラクターにこれほど大きく影響するとは、試乗するまで予想できなかった。
限られた時間の試乗ということで、室内のチェックもそこそこにクラッチペダルを踏み、赤く縁取られたエンジンスタートボタンを押す。そう、このAudi S1はAudi R8を除けば、Audi TT RS以来、久しぶりのマニュアル仕様車。ドイツ本国でもSトロニックの設定はなく、乗り手を選ぶAudi S1だが、マニュアル好きにはたまらない!

シフトレバーを1速に入れていざ走り出すと、良い意味で期待を裏切られた。最高出力231psの2.0 TFSIにこのコンパクトなボディ、そして、派手なルックスのAudi S1だけに、相当威勢のいい走りをイメージしていたのだ。

いや、もちろんこのAudi S1、Sモデルの名に恥じない速さを誇るクルマなのだが、現代のSモデルらしく、荒削りなところが一切ないのだ。


たとえば、低速でアクセルペダルを深く踏み込んだところで、ホイールスピンに見舞われることなく、平然とスピードを上げていく。ハイパワーのFFではありえないことで、絶大なトラクションを生み出すquattroだからこそ、躊躇せずアクセルペダルが踏めるのだ。2.0 TFSIは、1600〜3000rpmで最大トルクの370Nmを発揮するだけに、低中速のトルクに余裕がある一方、6000rpmを超えてもなおスムーズで力強い加速が続く。このハイパワーを持て余すことなく、安心して使い切れるのがquattroの醍醐味である。

4リンクのリアサスペンションが与えられたシャシーも実にバランスがいい。標準のAudi A1に比べると乗り心地は硬めなのだが、リアの突き上げはうまく抑えられているから、街乗りでも辛い思いはしないで済む。


一方、ワインディングロードではトーションビーム式のリアサスペンションとは別格の高い接地性を見せてくれる。Audi A1とは別モノだ。

Audi S1のハンドリングは軽快だが、決して回頭性が鋭いわけではない。人によってはスポーティと感じないかもしれない。しかし、Audi S1が提供するのは奥の深いスポーツドライビングだ。

上辺のスポーティさこそないが、ドライバーのステアリング操作に素直に応えてくれる、まさにオン・ザ・レールの感覚を味わうことができるのだ。多少、腰高な印象はあるものの、コーナリング中の挙動も安定していて、おのずとコーナリングスピードは上がっていく。そのうえ、このコンパクトなボディだから、安定感のなかにも軽快な動きを楽しむことができるのだ。

そのうえ、快適なグランドツアラーとしてのんびり走ることもできる懐の深さを備えるAudi S1は、"ホットハッチ"とは別次元の大人のスポーツモデルに仕上がっている。


試乗するまでは、自分とは縁のない世界のクルマかと思っていたが、その実力を目の当たりにしたら俄然興味が湧いてきた。しかも、いまやほしくてもなかなか選択肢のないマニュアルモデルである。410万円というプライスも魅力的......と、つい本気になりそうなAudi S1なのだ。

(Text by Satoshi Ubukata / Photos by Minoru Kobayashi)