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ヴェネツィア近郊で国際試乗会が開催された新型Audi A4、個人的に大いにハマりました。いくら私がAudiファンだからといっても、「ああ、このクルマ買いたいなあ」と思うことはそれほど多くありません。でも、新しいAudi A4は心底ほしいと思った。それくらいいいクルマだったし、自分の好みにあっていました。
なかでもとりわけよかったのは、2.0 TFSI ultraと2.0 TDI ultraの2台。どちらもとびきり静かで乗り心地が快適。しかも、十分にパワフルで、思いのままに操れるハンドリングを備えていました。
もっとも、静かといっても、どこかのメーカーのように乗っていて怖くなるような静けさじゃありません。なぜなら、車速や路面の状況を伝えてくれるエンジン音やロードノイズは聞こえなくもないからです。ただし、そもそもの音量が小さいうえに、エンジン音ならエンジン音、ロードノイズならロードノイズの純粋な音色しか聞こえてこないので、耳障りじゃない。そして、車速が上がればエンジン音やロードノイズは音量が上がったり、トーンが高くなったりする。言い換えれば、ノイズが車内に侵入しているのではなくて、ドライバーが必要とする情報をクルマが音として聞かせてくれているのです。
だから、クルマを自分が操っているという実感はしっかり得られるのに、疲れないし、自分がいかにもいいクルマに乗っている満足感が味わえる。私、数カ月前にドイツで最新のAudi A6 2.0 TDIに試乗しましたが、はっきりいって今回のAudi A4 2.0 TDI ultraのほうが明らかに静かなくらいでした。というわけで、新型Audi A4、まずはとても静かだったことをご報告させていただきます。
そして乗り心地がいい。それも、手触りが柔らかめなのにダンピングが効いていて、ボディをビシっとフラットに保ってくれる。そのバランスが絶妙というか、相当高い次元で両立されていると思いました。しかも、山道を少々飛ばしたくらいではへこたれないし、高速道路でもビシッと直進してくれる。つまり、Audiらしいハンドリングはしっかり守られているわけです。
このハンドリングと乗り心地のバランスを飛躍的に向上させるのに役立ったのが、リヤサスペンションを従来のトラペゾイダル式から5リンク式に改めた点にあったと、試乗会場でシャシー担当エンジニアから聞きました。つまり、5リンク式のほうが、ハーシュネス吸収のために大容量のブッシュを使いたくなる負荷の方向と、正確なハンドリングのために硬めのブッシュを使いたくなる負荷の方向をきっちり分離できるんですね。
ちなみに、新型Audi Q7で登場した"MLB Evo"がこの新型Audi A4にも使われていますが、この新しいモジュラー構造を開発することになったきっかけのひとつが、5リンク式リヤサスペンションの採用にあったとか。というのも、従来のMLBでは5リンク式にしたくてもスペース的にできなかったようです。
このMLB Evoによって進化したもうひとつのポイントが軽量化。Audiは、新型Audi A4は最大で120kgの軽量化を果たしたと主張していますが、これは駆動系やサスペンション周りの改良に加えて、ボディ各所を丁寧に見直すことで達成した数字。これらを実現するうえでMLB Evoが大きな役割を果たしたと、ボディ開発エンジニアは力説していました。
エンジンもなかなかよかったですよ。最高出力190psの2.0 TDIが低速域からグイグイと押し出されるような加速感を生み出してくれることは、いまさら驚きでも何でもありませんが、2.0 TFSI ultraもこれに優るとも劣らないほど豊かなトルクを生み出してくれます。
この2.0 TFSIエンジン、Audiが「ライトサイジング」と銘打つ新燃焼方式を採用していることでも注目されています。基本的には、かつてマツダが「ユーノス800」と「ミレーニア」に採り入れた"ミラーサイクル"と同じ考え方で、バルブタイミング機構を活用して圧縮行程を短く、膨張行程を長くとることで熱効率を改善したもの。さらに、中高負荷域のトルク不足を過給によって補うというのもマツダの手法と同じ(ただし、あちらはリショルム・コンプレッサーという機械式スーパーチャージャーだったのに対し、Audiはターボチャージャーを選択)。
私は、試乗会直前のフランクフルトショーでハッケンベルグさんに「ミラーサイクルと同じ考え方ですか?」ときいたところ、「基本的にはそうだ」との答えが返ってきたので、この捉え方は間違っていないでしょう。
ところで、原理的には優れているのに、ほとんど商品化されることなく自動車史の波間に消え去ろうとしていたミラーサイクルをライトサイジングとして蘇らせたのを除けば、新型Audi A4の「走る、曲がる、止まる」の部分に用いられている新技術はあまり多くありません。たしかにボディは最大で120kgも軽量化されたけれど、素材はAudiお得意のアルミではなくスチール製。足回りも5リンク式リヤサスペンションは採用されたものの、それ以外に特別な新機軸は見当たらないし、それはエンジンや駆動系も同じこと。つまり、走りの質が高まったのは、従来技術を徹底的に煮詰めることで実現したといえるでしょう。
それ以外にも、新型Audi TTで登場したバーチャルコックピットが新型Audi A4にも採用されるほか、アダプティブクルーズ・コントロールはトラフィックジャム機能が盛り込まれたものが標準装備されたり、自動ブレーキや自動操舵も用意される見通し。このへんは一気にライバルに追いついたか、ものによっては追い越したものもあるといえそうです。
また、「元祖ダウンサイジング」のフォルクスワーゲン/Audiが「ライトサイジング」という言葉を使ったのも気になるところ。そこで同じ席でハッケンベルグさんに「ライトサイジングの登場はダウンサイジングの終焉を意味するのですか?」と質問したところ、「いまのところライトサイジングは選択肢のひとつに過ぎない」と答えていたので、これを機にエンジン開発の方向性を一気に改めるということはなさそうです。
ところで、原理的には優れているのに、ほとんど商品化されることなく自動車史の波間に消え去ろうとしていたミラーサイクルをライトサイジングとして蘇らせたのを除けば、新型Audi A4の「走る、曲がる、止まる」の部分に用いられている新技術はあまり多くありません。たしかにボディは最大で120kgも軽量化されたけれど、素材はAudiお得意のアルミではなくスチール製。足回りも5リンク式リヤサスペンションは採用されたものの、それ以外に特別な新機軸は見当たらないし、それはエンジンや駆動系も同じこと。つまり、走りの質が高まったのは、従来技術を徹底的に煮詰めることで実現したといえるでしょう。
いっぽうでドライバー・アシスタンス系には新技術が目白押しです。このあたりは、2017年にデビューする次期型Audi A8にAudi初の自動運転システムを搭載することと無関係ではなさそうですが、なかでも特にスゴイと思ったのがプリディクテブ・エフィシェンーアシスタント。
これはアダプティブクルーズ・コントロールの一種なんですが、ナビの地図データを利用してランナバウトや高速道路のインターチェンジなどが近づくと自動的に速度を調整してくれるというもの。従来のアダプティブクルーズ・コントロールは、前走車がいなければそれまでの巡航速度と同じスピードでランナバウトやインターチェンジに進入しようとしますから、これは非常に便利なシステムといえます。しかも、速度規制にあわせて巡航速度の上限を自動的に設定するなんて機能まで盛り込まれているのです。
ただし、ヨーロッパの地図データがそのまま使えないせいか、日本市場にこの機能が導入されないのは残念。いつの日か、日本仕様にも設定してもらいたいものです。
それ以外にも、新型Audi TTで登場したバーチャルコックピットが新型Audi A4にも採用されるほか、アダプティブクルーズ・コントロールはトラフィックジャム機能が盛り込まれたものが標準装備されたり、自動ブレーキや自動操舵も用意される見通し。このへんは一気にライバルに追いついたか、ものによっては追い越したものもあるといえそうです。
日本での発売は2016年前半となる予定。まずは190psと252psという2タイプの2.0 TFSIが導入されますが、190psはFWDで252psはquattroとなります。ちなみにATはどちらも7段Sトロニックで、quattroのセンターデフはカットモデルを見る限りトルセン式と推測されます。ボディタイプはSedanが先行して、Avantの発売は数ヵ月遅れになる模様。いまや社会現象と化しているディーゼルモデルに関しては「導入を検討中」というのが公式な見解ですが、ここでは期待も込めて「導入は間違いなし」と断言させていただきます。
価格は装備の充実に伴っていくぶん上昇するものの、現行モデルとの差は決して大きくないはず。「私だったら2.0 TDIのセダンを選ぶ!」なんて話はさておき、日本での正式発表がとても待ち遠しいニューモデルといえるでしょう。
(Text by Tatsuya Otani / Photos by Audi Japan)