コックピットのデザインが新鮮である。ひと目でアウディとわかるまとめかたをしているのに、これまでのアウディとは明らかに違う雰囲気を醸し出している。ひとことで表現すると、カッコいいのだ。これまでも、質感の高さや美しい仕上げが評判のアウディだが、A7スポーツバックのコックピットはそれをさらに一歩進めて、よりスタイリッシュで心地良い空間を演出することに成功している。
たとえば、写真ではわかりにくいが、新しいデザインのメーターパネル。最近は液晶モニターにアナログメーターを表示する高級車が増えているが、A7スポーツバックは本物のアナログメーターを配置する。速度計と回転計が中央の液晶モニターの少し手前に置かれた立体的なつくりが印象的だ。回転計のレッドゾーンや燃料計の表示にはLEDを用いていて、これがまたアウディ的でカッコいい。それでいて、全体としては奇をてらったところがなく、ドライバーが抵抗なく受け入れられるデザインなのがいい。
いろいろ選べるウッドパネルのひとつに"多層ウッドパネル"がある。色の異なる薄い板を重ね、これを縦にスライスすることで、重ねた層を見せようという試みだ。この"ミルフィーユ"というか"バームクーヘン"のような、明るい色のウッドパネルもA7スポーツバックを華やいだ雰囲気にしている。
S-lineについてはのちほど触れるとして、まずはエアサス仕様を試す。エアサスはアウディ ドライブセレクトのモード切替で設定可能。「コンフォート」「オート」「ダイナミック」から、まずはオートを選択する。A4やA5では、アウディ ドライブセレクトのモード切り替えはセンターパネルのスイッチで行うが、A7スポーツバックではMMIを使う。センターパネルの8インチモニターで確認できるのが便利だ。
さっそく走り出すと、予想に反して(!?)しなやかに躾けられたサスペンションに拍子抜けした。スポーティクーペにやる気満々の265/35R20タイヤという試乗車だけに、僕はハードな乗り心地を予想していたのだ。しかし、実際のA7スポーツバックは、しなやかな動きを示すサスペンションが、快適かつ落ち着いた乗り心地をもたらした。場面によっては、ロールやボディの上下動が気になることもあったが、そんなときにはアウディ ドライブセレクトでダイナミックモードを選んでやると、余計な動きが抑えられるから、心置きなくペースを上げられる。ダイナミックモードは多少引き締まった乗り味だが、それでもしなやかさが失われることはなく、個人的にはオートよりもダイナミックを積極的に選んでしまった。
ハンドリングは終始軽いアンダーステアに徹していた。もしも、オプションのリアスポーツディファレンシャルが装着されていたら、FR顔負けのスポーティなハンドリングが楽しめたのだろうか?
A7スポーツバックには、アウディとしてはこのクラス初となる電動パワーステアリングが採用されている。それは、燃費向上に一役買うだけでなく、たとえば、"レーンアシスト"に修正舵の機能を入れたり、また、"パークアシスト"でステアリング操作の自動化を行ううえでも役に立つものだ。問題はそのフィーリングだが、A7スポーツバックにかぎればステアリングフィールに違和感はなく、そういわれなければ電動パワーステアリングとわからないほど、高い仕上がりを見せている。
ボディに関して唯一気になったのはリアまわりの剛性感だ。大きな開口部を持つ5ドアモデルだけに、セダンに比べるとやや剛性感が不足しているように思えたのだ。19インチを履くFFモデルではあまり気にならなかったから、さらに良好な乗り心地を得る意味からも、日本導入時にはぜひ18〜19インチを用意してほしい。
A7スポーツバックに搭載される3.0 TFSIは、すでにA6でおなじみのスーパーチャージャー付3L V6エンジンだ。スペック上はA6のものより10psアップの300psを誇るが、そのフィーリングはずいぶん変わった。スーパーチャージャーだけに、相変わらず低回転から強力なトルクを発揮するのだが、アクセルペダルに対する反応が実に自然で扱いやすく、ラグジュアリークラスにふさわしいエンジンに進化している。
しかもこの3.0 TFSI、得意とするのは低回転域にとどまらない。4000rpmを超えたあたりから、まるでV8のような勇ましいサウンドを奏でながら、ストレスなく回転を上げていく。実際には少しずつトルクはドロップしているのだが、頭打ちする感じはほとんどない。街乗りからワインディングロードまで、あらゆる場面で実に頼もしいパフォーマンスを示すパワーユニットといえるだろう。
ちなみに、現地では、ベーシックな3.0 TDIのFFモデルも試すことができたが、マルチトロニック(CVT)との組み合わせは、3.0 TFSIクワトロよりも軽快な動きが印象的で、これが買えるヨーロッパの人たちが羨ましく思える。
というわけで、終始快適かつ気持ちのいいドライブが楽しめたA7スポーツバック。日本の道では少しばかり車幅が広すぎるかもしれないが、それが苦にならなければ、実に楽しみな一台である。(続く)
(Text by S.Ubukata)