一泊二日の滞在といっても、運転時間は正味3〜4時間というA7スポーツバックの国際試乗会。そんな短い時間でも、A7スポーツバックの魅力を確かに感じ取ることができた。しかし、それ以上に伝わってきたのが、アウディの変化だった。
A7スポーツバックは、いままでのアウディとはひと味もふた味も違うクルマだった。

エクステリアのカッコよさは写真でも伝わるだろう。実物はさらに魅力的だったが、それは試乗前にある程度予想できたことだ。インテリアのつくりこみの良さもアウディらしい部分である。上質さや美しさは、これまでも定評があったが、A7スポーツバックでは、さらに高いレベルに進化したといえる。

しかし、それだけなら感心はしても、驚くことはなかったと思う。僕は、これまでとの違いに驚いたのである。では、いままでのアウディとは何が違うのか? クールだが暖かみがある。先進的なのにフレンドリー。これまでの、どこか人間を寄せ付けない冷たさが影を潜め、とても人間的な表情を持つようになったところが大きく違うのだ。

それは、サルディニアからミュンヘンに戻ったあと試乗した新型A8にも共通している。アウディらしいクールさを失うことなく、運転していても、同乗していても、とても気持ちのいい空間が提供されていたのだ。


走りに関しても、A7スポーツバックやA8には、これまでのアウディとは違った味付けがなされていた。スポーティさを押し出しすぎて、ともすると日常使用時の快適性が足りないこともあったアウディだが、A7スポーツバック(そしてA8)はしなやかなサスペンションが懐の深い乗り味をつくりだし、スポーティさと快適さを上手にバランスしてる。正直なところ、走りの完成度という点で、これまでメルセデスやBMWに遅れを取っていたアウディだが、このA7スポーツバックは堂々肩を並べるレベルに達したと断言できるほどに成長した。

ハンドリングについても、基本性能の高さに加えて、ESPによりアンダーステアを軽減するトルクベクタリングや、オンザレールのコーナリングを実現するリアスポーツディファレンシャルが、ライバルのFR車顔負けの軽快さをもたらしている。ラグジュアリークラスでそこまでこだわる人がどれほどいるかはわからないが、僕を含めて運転の好きな人たちにしてみれば、この変化はうれしいものだ。

そんなA7スポーツバックの乗り味がまた、このクルマに暖かみを与えているような気がする。カッコよさとスポーティさに加えて、優しさを手に入れたA7スポーツバックは、僕たちに新しいアウディの世界を見せてくれそうだ。

僕にとって、いまいちばん日本上陸が楽しみなアウディ、それがこのA7スポーツバックである。(終わり)


(Text by S.Ubukata)