"究極のスポーツ"を意味する「RS」をモデル名に抱くアウディのプレミアムクーペ「アウディ RS 5」が上陸、日本の道に解き放たれた。

さて、その実力は?

このクルマの一番の特徴は、RSモデルにふさわしい、もの凄いパワーのエンジンだ。同じ4.2L V8でも、A8用は350psで、S5クーペ用は354ps。それに対しこのRS 5版はほぼ100psアップの450ps!これはR8に積まれる4.2L V8よりもハイパワー。つまり、4.2L V8の頂点というべきエンジンなのだ。

これに組み合わされるトランスミッションは、7速のSトロニック。V8エンジンとSトロニックの組み合わせは今回が初となる。そしてもうひとつの"アウディ初"が、クラウンギア式センターデフを用いた最新世代のクワトロだ。
A7スポーツバックにも搭載されるこのシステムは、通常走行時は前40:後60にトルクを配分する一方、路面や走行状況にあわせて、前15:後85〜前70:後30の範囲でトルク配分を変化させる。従来よりもトルク配分の幅が広がったことや反応速度が向上したことが、クラウンギア式のアドバンテージであるとアウディは主張する。電子制御ではなく、純機械式のセンターデフというのは従来どおりだ。

また、アウディRS 5では、ESPのいち機能として"トルクベクタリング"機能を搭載している。コーナリング時にグリップが低下する内側の駆動輪に軽くブレーキをかけることで外側の駆動輪に確実にトルクを伝えるとと同時に、旋回力を発生させることでアンダーステアを低減するというものだ。さらに日本仕様のRS 5では、リアアクスル左右の駆動力配分をアクティブに制御することでハンドリング性能を高めるリヤスポーツディファレンシャルを標準で搭載。この場合、ESPによるトルクベクタリング機能はフロントアクスルのみとなり、リアアクスルのコントロールはスポーツディファレンシャルに委ねられる。

サスペンションは、フロント:5リンク式、リア:トラペゾイダル式。可変ダンピングシステムは搭載されないが、近い将来、DRC(ダイナミックライドコントロール)と呼ばれる姿勢制御システムが採用される予定だ。

そんな知識を頭に叩き込んで、いざ試乗車のコックピットへ。

左はヨーロッパ仕様(!?)の広報写真だが、メーターパネルまわりのブラックパネルやコンソールのカーボンパネルが、実にスポーティな雰囲気をつくりあげている。写真ではわかりにくいが、メーターのスケール部分もピアノブラックのペイントが施されていて、いつものアウディとはまた別の雰囲気だ。
さっそくエンジンに火を入れると、始動時こそ"ブォーン"という勇ましい音が聞こえてくるが、それ以降の静かさには拍子抜けする。これなら早朝や深夜の住宅街でも気を遣わなくて済みそうだ。実はRS 5のエキゾーストシステムにはフラップがついていて、"アウディ ドライブセレクト"でダイナミックモードを選ばなければフラップが閉じられ、アイドリングや低負荷時は控えめなサウンドとなるのだ。それではと、ダイナミックモードに切り替えると、排気音はガゼン太く勇ましい音質に変わる。

"ハイレヴV8"(ハイレグではないので、念のため)を謳うエンジンは、レヴリミットが8500rpm。8250rpmで最高出力を発揮するが、大排気量エンジンだけにアイドリングを上回る程度の低回転から余裕の力強さを見せる。だから、街中では右足の微妙な動きだけで流れをリードできるし、高速道路でも涼しい顔でクルージングが可能。スポーツモデルだからといって肩肘張る必要はない。

しかし、その気になると、とてつもなく速い! 研ぎ澄まされたスポーツエンジンは、自然吸気らしい鋭いレスポンスでレブカウンターを駆け上がる......とともに怒濤の加速がドライバーを襲う。圧巻は4000rpmを超えてからで、6000rpm、そして、8000rpmを回っても加速に鈍りはない。高回転のスムーズさも並外れていて、この実力には脱帽だ。

このだけの高性能を、余すところなく路面に伝えるのがクワトロのアドバンテージだ。ドライ路面なら、トラクションコントロールに頼ることなく猛ダッシュを決められるし、走行中の安定性も極めて高い。高速を100km/hで巡航していても、60km/hくらいで流している感覚でいられるのは、そのおかげだろう。

ワインディングロードでは、締め上げられたサスペンションがスポーティで好ましい。コーナリングは、動き出す瞬間こそややノーズの重さを感じるものの、旋回体勢に入れば、あとはアクセルペダルを踏み込むことでぐいぐいと曲がっていく。これぞオンザレールのハンドリング! クワトロとスポーツディファレンシャルのコンビネーションが、アウディの走りを大きくレベルアップさせたのである。
伝統の名にふさわしいスポーツ性を手に入れたRS 5。ちなみに、今回は左ハンドル仕様をドライブしたが、ドライビングポジションやステアリングフィールなどに、右ハンドルにはない良さが感じられた。すべての人に勧めるわけにはいかないが、左ハンドルが苦手でなければ検討の価値は十分ある。

(Text by S.Ubukata)