実際、車両重量がちょうど1.4トンに収められたこのモデルの場合、搭載エンジンの最高出力は40ps以上もダウンをするにもかかわらず、車両重量が300kg以上軽い事からウエイト/パワーレシオは3.43kg/psと、RS 5の3.83kg/psを凌ぐデータをマークする。
ちなみに、さらにコンパクトなクワトロ・コンセプトの場合、その重量はこの試作車よりもさらに100kgマイナスの1,300kg。ウエイト/パワーレシオが3.19kg/psに過ぎないこちらの場合、0→100km/h加速タイムはわずかに3.9秒と発表されているが、さすがに3秒台への突入は無理にしても今回テストの試作車もそれに準じた加速力の持ち主である事が予想をされる。
実際、そんな試作車の加速のフィーリングは痛快そのものだった。「わずかに2.5リッター」とは思えないパンチ力で、仮に纏った"A5ルック"の手作りボディをグングンと加速させる。RS 5が発する迫力満点のV8サウンドに未練は無い、と言えばウソにはなるが、加速力そのものはあちらにヒケをとらない実感がある。
ターボエンジン搭載モデルの場合、車両重量が大きいとブースト圧が高まる以前の低回転領域と高まった後の"段差感"がどうしても大きくなりがちなもの。けれども、このモデルの場合はそうした違和感は殆ど目立たず、スタートの瞬間からスポーツモデルらしい俊敏な加速感を味わう事が出来るのだ。
テストのために用意をされたツイスティなハンドリング・コースでヒラリヒラリと身をかわす、いかにも「ノーズが軽い事」を実感させるハンドリングの感覚も素晴らしいものだった。RS 5の豪快な走りも魅力的だが、それとは異次元の軽やかさを味わわせてくれるこの試作車の、「ひと回りコンパクトなスポーツモデルを操るよう」な操縦感覚も、スポーツ派ドライバーにとっては大いに魅力的なものであるはずだ。
しかし、実はそんな動力性能やハンドリング感覚以上に新鮮で魅力的と感じられたのは、このモデルが実現させていた圧倒的にしなやかなその乗り心地に関して。このところ「ちょっと脚がかたいかな・・・」と思わせるモデルが多かったアウディ車の中にあって、これは出色の出来栄えなのだ。
そんなこの試作車の仕上がり具合を知ってしまうと、クワトロ・コンセプトの市販化はもとより、これからのアウディ車の走りの進化にもいやが上にも期待が出来てしまうもの。軽量化とは単に加速や燃費に効くのみならず、今やこうしてクルマ全体の動的質感のアップにも一役買ってくれるという事だ。
(Text: Y.KAWAMURA / Photo: Audi Japan)