東日本大震災の衝撃は、遠く離れたドイツにも強い影響を与えている。ドイツに暮らす筆者が揺れる現地の様子を伝える。


写真:chimneys by *Melody* 3月11日の東日本大震災とそれにともなう原発事故は、ここドイツをも大きく変化させた。

本当に多くの方々が、「日本は地震で大変だろうけど大丈夫か?」と心配するとともに、被災地や東京の人たちの秩序のある冷静な振る舞いに尊敬の念を抱いている。そして、「復旧に対し心から応援しています!」という心温まるメッセージを頂戴した。ドイツ各地に援助の基金が設立され、 日本に対する援助の熱はいまだに冷める様子がない。

と同時に、ドイツの人々は原発事故に大きな関心を抱いた。ドイツは、1000km以上離れていながら、当時のチェルノブイリ事故の影響を受けたせいか、原子力発電に否定的な国民であったが、今回の一件がその意識を加速した。

ドイツは2002年、SPD(ドイツ社会民主党)と緑の党の連立政権時代、2021年までに原子力発電から脱却することを国会で決議。しかし、その後のメルケル首相率いるCDU(ドイツキリスト教連盟)/FDP(自由民主党)政権が、この2021年という期限の延長、または法律を実質凍結するよう閣議決定した。「脱原発は本当に正しいのか?」と、世論が変わりつつあったのだ。ちなみに、ドイツには17基の原子力発電所があり、現在全電力の約25%をこれらの原発がまかなっている。

ところが日本の福島第1原発の事故以来、流れが激変した。まず、ドイツ連邦政府は地震の2日後である3月13日の日曜日、週末にもかかわらず、各大臣を首相官邸に招集。そして翌日には、ドイツの原子力発電所のうち1980年以前に導入された旧式の7基を急遽停止し、3カ月を費やしてその安全性を確認すると発表したのである。この7基のうち3基は、すでに廃止が決まっている。

日本の政治から考えたら、信じられないくらいの猛スピードだが、それでもまだドイツの世論は満足しなかった。3月後半に南西ドイツのふたつの州で行われた地方選挙では、もともと反原発派だったSPD(ドイツ社会民主党)と環境政党として知られる緑の党が大躍進した。これまで限られた層からしか支持されなかった緑の党は、これまでの2倍の票を獲得。どれだけドイツ世論が原発問題に過敏に反応しているかが伺える。

また、「3カ月間では検証期間として足りない」「当面、電気代が上がっても、原発なんてすぐに廃止して、風力などの環境にやさしい方法で発電すべきだ!」という声があちこちから聞こえてくる。そして、福島第1原発の事故以来、ドイツ各地の都市では数千から数万人規模の原発反対のデモが行われている。

事故以来、どの時間帯のどのニュースでも「FUKUSHIMA」という単語が聞こえないことがないし、かなり過敏な報道も続いている。福島第1原発の事故が、ドイツ国民を動かし、これまで以上にエコロジーな国にすることは間違いないだろう。ドイツには地震や台風などの自然災害はほとんどない。でも内陸のドイツには夏の干ばつがある。冷却水を集めている川が干上がったらどうなるのだ? テロリストが原発を標的したらどうするのか? とにかく、福島第1原発のように、コントロール不能となる危険性があるかぎり、原発を廃止せよというのが大方の意見だ。

一方、多くのドイツ人が僕に問いかける。「日本は世界で唯一の被爆国であり、放射能の恐ろしさを知っているはずだ。またあれだけ地震や津波の危険性にさらされ、今回の一件では予想もしなかった事態に陥っている。だから、きっと日本では、ドイツよりもっと大規模な反原発デモがあり、その結果原発を諦めて、日本独自の環境技術で生まれ変わるはずだよね?」と。

果たして、本当に日本は変われるのだろうか?