1932年にアウディ、DKW、ホルヒ、そしてヴァンダラーが合併してできたアウトウニオン(Auto Union)が現在のアウディAGの基礎になっていて、そのアウトウニオンのシンボルが、アウディの「フォーリングス」のベースであることは、皆さんもご存じだろう。
このうち、4社目のヴァンダラーは1886年の創業。東部ドイツのケムニッツに本部を置くこの総合メーカーは、ミシンから自転車、バイク、自動車までを手がけていた。たとえば、1930年代には年間10万台の自転車を世に送り出している。
アウトウニオンの結成後、第二次世界大戦が勃発、世界は混沌とした時代に入るわけだが、この戦争がヴァンダラーに不幸な事態をもたらした。敗戦によりドイツは東西に分断され、共産主義の東ドイツに拠点があったヴァンダラーは実質国有化され、ブランドもなくなってしまったのだ。ドイツ人の記憶には、ヴァンダラーの自転車は高品質で丈夫というイメージだけが残された。
そんな不運のヴァンダラーを現代に蘇らせた企業がある。1998年、古き良き製品にこだわる通販会社として知られるドイツの「Manufactum」社が、このヴァンダラーの自転車を当時のデザインで復刻。昔を懐かしむ年配者のみならず、若者のあいだでも人気を集める結果に。そして2006年には、自転車メーカー「Zwei plus zwei」の投資のもと、東西ドイツ分断による休眠からついに目覚めたのだ。
ドイツでの価格は、1000ユーロ(12万円)から3000ユーロ(36万円)程度。久しぶりに自動車以外で欲しいものが見つかった。日本にも導入されることを願っている。
長い休眠から蘇ったブランド、ヴァンダラー。良きブランドは生き続けるモノだ。当時の創設者であるRichard Adolf JaenickeとJohann Baptist Winklhoferも、きっと天国で喜んでいるに違いない。