Volkswagenのスポーツモデルを代表する「Golf GTI」と「Golf R」。ともに高性能な2.0 TSIエンジンを搭載するホットハッチだが、FF(前輪駆動)のGolf GTIと4WDのGolf Rでは、その走りにどのような違いがあるのか? 富士スピードウェイのショートコースで、2台の実力を確かめた。
265psのGTIと333psのR
10月中旬、フォルクスワーゲン ジャパンが、メディア向けの試乗会「Volkswagen Sporty model Circuit Experience」を静岡県の富士スピードウェイで開催した。
今回のイベントは、Volkswagenのスポーツモデルを代表するGolf GTIとGolf Rを、サーキットで思い切り走らせることができるというもの。2026年は初代Golf GTIの誕生から50周年にあたり、その節目に最新モデルの実力を確かめられる貴重な機会となった。
Golf GTI
Golf R Advance
Golf GTIといえば、1976年に初代モデルが登場して以来、ホットハッチの代名詞として高い人気を誇ってきた。一方、Golf Rのルーツは、4代目Golfをベースに2002年に登場したGolf R32にさかのぼる。GTIがFFのスポーツモデルとして進化を続けてきたのに対し、Rは4WDによってさらに高いパフォーマンスを追求してきた。
走行前に、まずは最新のGolf GTIとGolf Rについておさらいしておこう。現行Golf GTIは、2025年1月に日本で発売された、いわゆる“Golf8.5”をベースとするモデルだ。搭載される2.0 TSIエンジンは、マイナーチェンジ前に比べて最高出力が20ps引き上げられ、195kW(265ps)/5250〜6500rpmを発揮。最大トルクは370Nm/1600〜4500rpmで、これに7速DSGが組み合わされる。
Golf GTI
駆動方式は伝統のFF。注目したいのは、電子制御油圧多板クラッチ式のフロントディファレンシャルが標準で搭載されていることだ。左右前輪の駆動力を制御することで、コーナリング時のアンダーステアを抑え、優れたトラクションと旋回性能を実現する。
足まわりは、標準仕様では225/40R18タイヤを装着するが、オプションのDCCパッケージを選択すると、減衰力を電子制御するアダプティブシャシーコントロール“DCC”とともに、235/35R19タイヤが装着される。
一方のGolf Rは、Golfシリーズの頂点に位置するハイパフォーマンスモデルだ。こちらも2.0 TSIエンジンを搭載するが、最高出力は245kW(333ps)/5600〜6500rpm、最大トルクは420Nm/2100〜5500rpmと、Golf GTIを大きく上回る。組み合わされるトランスミッションは7速DSGで、0-100km/h加速は4.6秒を誇る。
Golf R Advance
Golf Rの大きな特徴は、4MOTIONと呼ばれる4WDシステムに、このGolf8世代から「Rパフォーマンス トルクベクタリング」を組み合わせていることだ。
このシステムでは、エンジンの駆動力を前後に配分するだけでなく、左右後輪へのトルク配分も積極的に制御する。たとえばコーナリング中に外側の後輪へより多くのトルクを配分することで、クルマを旋回方向へ向かわせる力を生み出し、コーナリング性能を高める仕組みだ。
さらに、ビークル ダイナミクス マネージャーが4MOTIONや電子制御ディファレンシャルロック、DCCなどを統合制御することで、ハイパワーを効率よく路面に伝えながら、高い旋回性能を実現している。
今回の試乗車は、上級グレードのGolf R Advance。DCCに加えて、1本あたり約8kgと軽量な19インチ鍛造アルミホイール“Warmenau(ヴァルメナウ)”を標準装備するのも特徴だ。
Golf GTIの軽快なハンドリングが光る
まずはGolf GTIで富士スピードウェイのショートコースに向かった。
今回はドライビングプロファイルを「スポーツ」、ESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)を「ESCスポーツ」に設定して走行した。
走り始めてすぐに感心したのが、その軽快なハンドリングだ。一般道やワインディングロードでもGolf GTIのハンドリングの良さは十分に実感できるが、サーキットではそれがさらに際立つ。ステアリングホイールを切り込むと、ノーズがスッとコーナーの内側に向かい、ドライバーの意図したラインを正確にトレースしてくれる。
Golf GTI
とくに印象的なのが、コーナーの途中から出口にかけての動きだ。一般的なFF車では、コーナリング中にアクセルペダルを踏み込むと、前輪が駆動力を受け持つぶん旋回に使えるグリップが減り、アンダーステアが強まる傾向にある。
ところがGolf GTIでは、アクセルペダルを踏み込んでもノーズが外側に逃げにくく、むしろ狙ったラインに沿ってコーナー出口へ向かっていく。
Golf GTI
Golf GTI
ここで威力を発揮しているのが、電子制御油圧多板クラッチ式のフロントディファレンシャルだ。コーナリング中に左右前輪の駆動力を適切に制御することで、アクセルオンによるアンダーステアを抑え、積極的にクルマを旋回させることができる。
前輪だけで加速、減速、旋回という仕事をこなしているにもかかわらず、アクセルペダルを踏み込むことをためらわせない。その仕上がりにはあらためて感心させられた。このハンドリングこそ、Golf GTIの大きな魅力だろう。
Golf Rはさらに速く、そして曲がる
続いてGolf R Advanceに乗り換える。こちらもドライビングプロファイルを「スポーツ」、ESCを「ESCスポーツ」に設定して、同じショートコースを走らせた。
まず驚かされたのが、その加速力だ。Golf GTIでも十分に速いと感じていたが、68psの出力差はやはり大きい。ショートコースのストレートエンドでは、Golf GTIが約120km/hだったのに対し、Golf Rでは約135km/hに達した。わずかな距離で15km/hもの差が生まれるのだから、Golf Rのエンジンパワーの高さは明らかだ。
Golf R Advance
Golf R Advance
もっとも、今回の試乗でさらに強く印象に残ったのは、そのコーナリング性能だった。コーナーへの進入では、ノーズがスッと内側に切れ込んでいく感覚はGolf GTIのほうが一枚上手。Golf RはGTIに比べると、やや落ち着いた動きを見せる。
Golf R Advance
Golf R Advance
ところが、コーナーの途中からアクセルペダルを踏み込んでいくと、Golf Rの印象は一変する。リヤがわずかに外側へ振り出すような感覚とともに、クルマが積極的に向きを変えていくのだ。
もちろん、リヤが大きく滑り出すわけではない。4輪がしっかりと路面をとらえたまま、あたかもリヤがクルマの向きを変えるのを手助けしているような感覚で、コーナー出口へ向かっていく。これこそ、Rパフォーマンス トルクベクタリングの効果だろう。
左右後輪へのトルク配分を積極的に制御することで、単に4WDならではの高いトラクションを確保するだけでなく、クルマの旋回そのものをアシストしているのである。そのおかげで、Golf GTIに比べてステアリングホイールの舵角が少なくて済む場面も多い。
しかも、アクセルペダルを踏み込んでもESCによる介入をあまり意識させず、4輪のグリップをフルに生かしながら加速していく。ハイパワーの4WDスポーツというと安定感が印象に残りがちだが、Golf Rの場合は、それに加えて積極的に曲がっていく感覚がある。
Golf R Advance
もちろん、安定感も抜群だ。コーナリング中にアクセルペダルを踏み込んでも姿勢が大きく乱れることはなく、ドライバーは安心してパワーを引き出すことができる。
高いエンジン性能と4MOTIONのトラクション、そしてRパフォーマンス トルクベクタリングによる旋回性能。それらが巧みに組み合わされていることを、サーキットという環境であらためて実感した。
どちらを選んでも走りが楽しい!
今回、Golf GTIとGolf Rを同じサーキットで走らせたことで、両車のキャラクターの違いがこれまで以上にはっきりと見えてきた。
前輪だけで加速、減速、旋回を受け持つGolf GTIは、FFスポーツとしては驚くほど軽快で、しかもアクセルオンでのアンダーステアが巧みに抑えられている。ドライバーの操作に対する反応が素直で、クルマを自分の手足のように操れる感覚が強いのが魅力だ。
一方のGolf Rは、4MOTIONとRパフォーマンス トルクベクタリングを駆使することで、さらに高い次元のコーナリング性能を手に入れている。とくに印象的なのは、コーナーの途中からアクセルペダルを踏み込んだときの動きだ。リヤが積極的に旋回を助けてくれるため、ステアリングホイールの舵角を抑えながら、より高い速度でコーナーを抜けていくことができる。しかも、ドライバーに特別な操作を要求することなく、その性能を引き出せるところがGolf Rのすごさである。
Golf R Advance
そういう意味では、より簡単に、より速く走らせられるGolf Rの実力の高さに、あらためて感心させられた。
ただし、だからといってGolf GTIの魅力が薄れるわけではない。Golf Rの圧倒的なパフォーマンスを知ったあとでも、Golf GTIの軽快な身のこなしや、ドライバーとクルマが一体になってコーナーを駆け抜ける楽しさは、やはり格別だ。
Golf GTI
速さと安定感を高い次元で両立するGolf Rか、それとも軽快なハンドリングを存分に楽しめるGolf GTIか。どちらも「走る楽しさ」を追求していることに違いはないが、その楽しさへのアプローチは異なる。
誕生から50年を迎えたGolf GTIと、その伝統を受け継ぎながら独自の進化を遂げたGolf R。2台をサーキットで乗り比べてみて、Volkswagenのスポーツモデルの異なる魅力をあらためて実感することができた。
(Text by Satoshi Ubukata / Photos by Kinari Arashima, VWJ)