最新のタイヤを最新のモデルに履いてこそ得られる効果はあるでしょう。しかし、ある程度年数の経った、距離を走ったクルマとの相性も興味深いところです。
「喧騒を置き去りにしよう」というコピーは、なかなか上手いコピーです。「騒音を打ち消そう」でも「静寂を手に入れよう」でもない点に大きな意味を感じとることができます。すでに試乗会では最近のクルマで実力を確かめており、そのコピーがあながちオーバーな表現ではなく、言葉足らずでもないことを確認しています。
そんなEfficient-Grip Comfortを、少し前のゴルフ6ヴァリアントに履かせて試乗してみました。タイヤサイズは、225/45R17です。そこで見えてきたものは、置き去りにした喧騒のことに加えて、過ぎ去った日々。そもそもこのクルマが本来持っているパフォーマンスの「原典」を垣間見ることができるかのようでした。
今回EfficientGrip Comfortを履かせたクルマは、先代の「ゴルフヴァリアント 2.0 TSI スポーツライン」。ワゴンボディのヴァリアントでありながらGTIと同じエンジンをフロントに搭載するハイパフォーマンスモデル。オドメーターの数字が13万kmを超えている個体です。
このくらいの距離でも"やれ"の少ないボディの素性の良さはさすがといったところ。「少し距離の多めのこのくらいのモデルを選ぶというのもありだな」と思ったりします。とはいえ、新車の剛性感と変わらないといったら、それはいささかオーバーでしょう。素直なハンドリングと軽快な乗り味、そしてダイナミックな加速感。TSIエンジンはダウンサイジングの魅力もありますが、それでも決して大きすぎないボディに2000ccという排気量を死守していることによる、コクのあるトルクのゆとりは、数字だけ帳尻を合わせていった小排気量エンジンでは敵わない豊かさがあるものです。今でもその魅力、褪せることはありません。
そんなモダンな一面とオーソドックスなキャラクターを併せ持つ距離の多めの少し古いゴルフと、このEfficientGrip Comfortとの相性はなかなか魅力的だなと思うのです。もちろん、本来このクルマの魅力も戻ってきます。グリップや排水性も含めて、路面へのトルクの伝え方、なかなか良いのではないでしょうか。その路面をつかんだときのハンドリングの軽快さ。そのうえでのクラスを超えた静かさ。そんな基本的な性能、タイヤに求める多くをリセットさせる商品性とバランスの良さが、このタイヤの魅力ではないでしょうか。
加えて、こうした少し年式の経ったクルマの場合、その経年変化による緩さ、しなり、なじみのようなものをある種帳消しにしながら、かといって必要以上にハイグリップでないのがいいところ。ある種の「やさしさ」があるのはさすがというほかありません。
たまたま今回の試乗では、首都高速の湾岸線を何度も往復しました。ペースは速い。風も強い。でも風切り音はボディがシャットダウンしているのでしょう。ペースが上がるとロードノイズは大きくなるはずです。しかし、それが騒がしくないのです。やかましくもないのです。
こうした音は「無」にしたらそれでよいのかというと、そうではないと思うのです。耳に障らないことは求められますが、ロードインフォメーションは必要です。ある程度速度に応じて音自体も大きくはなる。しかしそれが耳障りではない。「喧騒を置き去りにする」が「静寂に包まれる」ではなない核心に触れることができました。
そして、クルマの「齢」に寄り添ったやさしさとでもいうのでしょうか。クルマの設計はかれこれひと昔、このクルマに関しては基本設計をゴルフ5からキャリーオーバーされていますから、かれこれふた昔前の常識さえ見え隠れします。これは何も、古臭いということを指摘したいわけではなく、「事実としての世代的ギャップ」という意味で、クルマとタイヤとの差に現れることは不可避であるということを申し上げたいのです。さらに距離も走っています。経年変化ではなく、稼働距離、稼働時間につれての変化も無ではないはずです。
そう考えると、古いクルマや中古車でタイヤを交換する場合には、その相性も考えておいたほういいのです。こういう場面でもEfficientGrip Comfortはなかなかの対応力を見せるなというのが率直な感想でした。
「喧騒を置き去りにする」それは少し古いゴルフであってもやはり健在。コピーに偽りはありませんでした。さらに、これまで走り抜けてきた「過去」からも走り去ることができたかな。そんな感覚も芽生えました。過去からの遊離、それはすなわち、失われた時間、取り戻すことのできない過去をどう埋めるか、そんなことが求められると思うのですが、それを饒舌になりすぎず、時にやさしく、マイルドに、装着させればたちまちフィットする、そんな懐の深さを感じていただけることでしょう。
だからこそ、まだ走ろう、乗り続けよう。そしてこの愛車でどこに行こうか。そんなドライブへの誘いを再び感じることができるというものでしょう。見た目としては黒いゴムの輪っか、それがタイヤです。見た目上はことさら旧態依然としてますが、その進化は目覚ましいものがあります。そんな数ある商品群の中でもぜひ一度お試しいただきたいと思います。
(Text & Photos by Kentaro Nakagomi)
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