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Author:小倉 正樹

1950年生まれ。伊藤忠オート、日刊自動車新聞社を経て自動車専門誌「LE VOLANT」編集部に。同誌編集長、「VW GOLF FAN」編集長を経てフリーに。

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新型マーチでジウジアーロを思い出す!?
100902ogu007.jpg新型マーチが街中でもチラホラ見られるようになった。で、オグラはジウジアーロのことを思い出した。

この春、同氏のプロフェッショナルぶりに改めて驚いてもいた。どういうことかというと・・・

100902ogu003.jpg■イタルデザインのユニークさ

ご存知のように、フォルクスワーゲンは5月にイタルデザインの買収を発表した。少しショッキングなニュースではあった。以前から、イタリアン・カロッツェリアの凋落ぶりが伝えられてはいたものの、ジウジアーロのイタルデザインだけは別と考えていたからだ。伝統的な大手カロッツェリア、たとえば、ベルトーネやピニファリーナなどは、デザインのアイデアを提供すると同時に、オープンモデルやクーペモデルに限っては下請的存在となって少量生産を手がけてきた。しかし、時代は変わり、効率を求める自動車メーカー側は、生産ラインのフレキシビリティを増すなどして、そうした旧来の方法を採らなくなり、大手カロッツェリアは生産工場を閉めざるを得なくなった。その結果、デザイン部門だけが残るという格好になった。

ジウジアーロ率いるイタルデザインは、その成り立ちからして、大手カロッツェリアとは異なっていた。デザインのアイデアを提供するばかりでなく、生産方法、それに伴う生産コストの計算までも行ない、技術面もサポートするエンジニアリング要素を加えて、全世界の自動車メーカーに提案してきた。ショーモデル、プロトタイプを作るための工房は持つが、メーカーからの受注を前提とした下請的生産工場は持たなかった。したがって、カーデザインへのニーズがある限り、この小回りのきく形態もあって、他がどうであれ、十分企業としての成り立っていくものと思われていた。

ところが、時代がさらに変わって、生産技術の高度化、さらにはメーカー内のデザイン部門が充実もあって、外部デザイン工房の必要性が薄れてしまった。一時期、発展途上国のメーカーにアプローチすることで、経営を成り立たせていたイタルデザインも、市場ニーズの減少には立ち向かえず、ここ数年は経営危機が噂されていた。そこに、VWによるイタルデザイン買収のニュースだった。

■VWがイタルを買収した理由

イタルデザインのどこに、VWは魅力を感じたのだろうか。もちろん、第一にはカーデザインのアイデアを得るという目的があると思われるが、どちらかといえば、イタルデザインの持つカロッツェリアとしての技術力、すなわち短期間にアイデアを具現化できるという力を高く評価したためとも思われる。VWはいまや多くのブランドを抱えていて、それぞれのブランドが独自の個性を打ち出そうとしている。様々なショーでのコンセプトカーをを通じたアピールは、マーケットリサーチの観点からもより重要になってくるはずだ。こうしてみると、VWがイタルデザインに求めたものがなんであるか、自ずと見えてくるような気がする。

100902ogu004.jpgそれにとどまらず、将来のクルマの在り方といった根幹部分での新たな発想を得る目的もあると思われる。VWはこのところ、ショーモデルのUp!シリーズで、ニュースモールファミリーがまもなく登場し、EVの具体化されることを示唆してきた。将来的には、完全なゼロエミッションになるとしながら、当面は内燃機関、あるいHVが都市間交通の担い手となり、都市部ではe-Up!のような電気自動車が活躍するという図式を描く。今後、小型車へのニーズがより高まり、EVを具体化するための基盤整備が重要になるとの認識だ。

ジウジアーロとイタルデザインは、環境問題が大きくクローズアップされる前から、都市部のモビリティマネージメントに関しては数々の提言をしてきている。たとえば、'92年のトリノショーには、"BIGA"というコンセプトカーで、近未来のシティカーの在り方を示した。ほぼ立方体というべきボディ(全長約2m)ながら、ドライバー以外は対面して座らせるという方法で、無理のない4名乗車を実現していた。基本は、電池でモーターを駆動する電気自動車だが、充電用に小型のディーゼルエンジンを搭載してもいた。

しかし、このクルマで最も重要だったのは、都市部のフリートユースに向けての新しい考え方。数カ所にターミナルのようなものを設置し、そこでクルマを借り、あるいは乗り捨てできるようなシステムの構築を、行政、自治体に提言していたことだ。そのために、クレジットカードを差し込めば誰でも使えるようにするなど、使い勝手も考慮していた。要するに、いま一部で事業化が進められているカーシェアリングだ。

憶測にとどまるが、VWは、イタルデザインのこうした部分、そしてもちろん、小型 車のデザインに秀でているところに、魅力を感じたのではないだろうか。

■あおりを受けるのはイタリア国民?

イタルデザインがVW傘下となって、一番困るのはフィアットだろう。歴史を振り返れば、フィアットが不振から抜け出す契機となるのは、常にジウジアーロ・デザインのニューモデル。ウーノやプントは、その典型的な例だ。なにしろ、ジウジアーロはどんなに小さなクルマではあっても、どこかに気品といったものを漂わせるのがうまい。一時期、フィアットは自社デザインにこだわったが、その間、ヒット作は生まれなかったように思う。グランデプントで息を吹き返したが、それはイタルデザインのアイデアだった。

考えてみれば、ジウジアーロはイタリア国民にとっては恋人のような存在かもしれない。イタリア国民は、その大事な恋人を奪われたことになる・・・

■初代マーチの謎が解けた

新型マーチでジウジアーロを思い出したというのは、こういうことだ。初代マーチのオリジナルスケッチは、やはりジウジアーロのものだったことが、この春の、あるアルファロメオのミーティングでハッキリして、謎が解けたような気分になっていたためだ。ニッサンとの提携で生まれたアルファロメオ・アルナの、ニッサン側の担当だったエンジニア氏が、「もう時効だからいいでしょう。初代マーチのデザインはジウジアーロのものです」と教えてくれたのだ。ウーノによく似ていたものの、リアウ インドーの傾斜角が大きいなど、もうひとつ合理的でなかったのは、ニッサン側がまだ保守的だった日本のマーケットに合わせて変更したためとも聞かされた。ジウジアーロのデザインと推測しながら、確信までに至らなかったのにはそうしたことからだったのだ。

オグラはトリノに出向いて、イタルデザインを訪ね、ジウジアーロにインタビューしたことが何度かある。そんな機会に、「ところで、初代マーチは貴方のデザイン?」と聞いたことがある。ジウジアーロは首を横に振って、「ノー」という答。そして、ようやく今年の春、謎が解けた。ニッサンがイタルデザインから初代マーチのデザインを買う契約において、ジウジアーロがオリジナルを描いたとは公表しないという項目があったそうで、彼は見事にその契約を守っていたことになる。改めて、オグラはジウジアーロのプロフェッショナルぶりに感心し、驚いたというわけだ。
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